不思議な空間
「私のもう一つの趣味は編み物です。始めの道具だけ揃えるなら、五千円もあれば十分なものが買えますよ。毛糸代は毎月千円程度です」
「絵を描く女性は派手な性格のひとばかりかと思ってましたけど、祥子さんは家庭的なところがあるんですね」と、北。
「わたしもお料理が好きで、家庭的よ」
由紀が笑みを浮かべていた。
「いいですね。家庭料理には憧れます」
「わたしは駄目ね。結婚しても晩のおかずを総菜屋で買ってくるかも」
聖子は困惑顔だった。
「それも一概に悪いとは思いませんけどね。毎日じゃあ飽きるでしょうけど」
そのとき艶のある大きなケースに収めた楽器を、佐島が抱えて戻ってきた。
「椅子を借りてきます」
北は食事中の民宿の主人から承諾を得て家族の食堂から椅子を借り、それを囲炉裏の部屋に運んだ。
その椅子に佐島が座ってチューニングを始めた。
「習ったんですか?」聖子が訊いた。
「まあ、一応ね。友だちが先生です」