不思議な空間
「あと、カラオケでしょ」由紀が補足した。
「アイドル歌手でした。冗談です」
「じゃあ、あとで一曲お願いしますよ」
佐島が云うと、
「ここはカラオケなしです」
そう、北が云った。カラオケは苦手だった。
「カラオケなしというのも結構。次は並木さんですね」
「並木祥子です。郵便局に勤めてます。趣味は絵を描くことです」
佐島が拍手をすると、聖子たちもそれに倣った。北もつられて拍手した。
「絵を描く美女ですか。いい雰囲気です」
佐島がそう云うと、祥子は顔を紅くした。
「わたしたちは絵を描かないわ」と、聖子は云い「その代わり小話をひとつ。歌手の西城秀樹が六十歳になったとき云ったそうです『ヒデキ、還暦!』ってね」
ほぼ全員が笑った。佐島は皮肉を云った。
「今のが小話ですか?まあ、いいでしょう。聖子ちゃんは美人ですからね」
「美人でもないわよ。ねえ」ふたりは眼を合わせて云った。
「でも、本心はどうかしら」と、聖子は苦笑する。
「おふたりとも、きれいですよ」と、祥子。
「みんな美人で嬉しく思っている北良平です。タクシーが仕事です」