ゆけ!国民レンジャーよ!
「イエ、ダカラ、ワタシノコトハシンパイシナクテモイイトツタエヨウト。シカシ、ウラメニデマシタ」
「ほんとだな」
全員がうなずいた。そしてブルーを見た。
グリーンが言った。
「ブルーさん……」
イエローが言った。
「ブルーのダンナ……」
わたしはブルーを抱えた。
「ブ、ブルー……」
ピンクは言った。
「チーン、テカンジデスネ」
下ネタだった。
こうして我々は仲間を一人失った。ブルーは敵を討てなかった。その無念は痛いほど伝わってきた。我らはなおも一丸となった。そして目の前に立ちはだかるカッコイ議事堂に更なる敵意を燃やすのだった。
「誰だ、貴様たちは!」
カッコイ議事堂の警備員が我々を見た瞬間、大声を上げた。それもそうだ。我々の格好は正義の戦隊、国民レンジャーのコスチューム。いわゆるゴレ○ジャーのパクリと思ってもらっていい。そんな奴らがいきなり「たのもー!」とカッコイ議事堂に押しかけてきたのだ。不審に思うのも無理はない。
だが我々は不審に思われておおいに結構。わたしたちはこの議事堂を占拠する100パー党を倒しにやってきたのだから。
「我らはお前たち100パー党を倒しにきた!癌総理大臣はどこだ!奴を出せ!」
するとその騒ぎを聞きつけたある議員が顔を明るくさせた。
「お前たちはもしかして、噂に聞く国民レンジャーか!待っていたぞ!お前たち、100パー党を倒してくれ!」
野党の議員であった。それをキッカケにして野党の議員が我々の周りに集まってきた。それはもう大変な数だった。
「おい、国民レンジャーが来てくれたぞ!これで100パー党を倒せるんだ!」
この意外な味方の登場に我々は感激した。グリーンなんか目をうるうるさせている。
「まさか、こんなに僕たちを支持してくれている人たちがいるなんて。やっぱり今、日本はひとつの気持ちなんだ」
わたしはグリーンの肩に手を置いた。
「そのようだな。我々には味方がいた。これに応えようじゃないか」
「そうですね」
グリーンが言う。
「やったろうじゃん」
イエローが拳を握る。
「ヤリマスヨ、ガッツリ」
「お前が言うと、なんか別のことみたいだな」
わたしはピンクを見たが、ピンクのまなざしは真剣だ。ピンクはブルーの意思を継いだ。口ではああ言っていても、きっと日本に残るに違いない。わたしは俄然やる気が出た。
「よっしゃあ、いくぞー!お前たち、暴れまくってやれ~!」
わたしは同じく集まってきた100パー党の議員たちにエルボーを食らわせていった。イエローはそれを見て「ひゅう!」と口笛を吹いた。
イエローもお得意の突撃タックルで、100パー党をなぎ倒していっている。グリーンは一人一人、静かにこの世の平和について、目に涙をためながらじっくりと説得して回っている。グリーンの怒りは100パー党の一部の議員には通じるらしく、改心した議員も多かった。
ピンクの武器は色仕掛けであった。ブルーを口説いたそのフェロモンだ。100パー党のオヤジたちが引っかからないわけがなかった。オヤジたちは彼女にメロメロになった。彼女が歩く道はさっと開かれ、その脇には薔薇の花を一輪手にかざした馬鹿議員が片膝をついてピンクをうやまった。
我々は100パー党の雑魚をやっつけながら目的の部屋に到着した。
「ここが癌の部屋か……」
案内してくれた野党が我々の後ろで身構えている。
「よし!入るぞ!」
ガチャッ!
扉は開かれた。そこにはアホズラをした癌が一人で仁王立ちしていた。
「ふぁっふぁっふぁ。ついにやってきたのだね、国民レンジャーの諸君。でもボクちんはそう簡単には倒れないよーんだ」
わたしは癌に言った。
「お前はこの日本の桜を全て枯らした。その罪はここで償ってもらおう。さあ、わたしと一対一の勝負をしろ!」
わたしは癌に直接対決を申し出た。
イエローは「やっちゃえ、アニキ!」と高ぶっている。グリーンは桜の恨みをその瞳に宿して癌を睨みつけている。ピンクは「ウッフン」と言っている。
わたしは癌に歩み寄った。
「いくぞ、癌総理大臣!必殺パーンチ!スクリュー!!」
わたしは右手からうねるパンチを繰り出した。だがそれを癌はひらりとよけた。
「な、なぜだ!なぜ当たらない!」
癌は異様なほど身が軽かった。スーツを着た癌はネクタイを右手でくいっと動かした。
「来なしゃい。君のパンチは見切っている」
わたしはまたパンチを繰り出した。しかし次も当たらない。なぜだ!少し前、読者が「結局打たずに終わるんだ」とツッコんだのが本当になってしまうではないか!
「パンチパーンチ!」
それでもひらりとよける癌。くそう、どうすればいい!そう思った時だった。後ろにいたピンクが一歩前に出てきた。
「リーダーサン、ココハワタシニマカセテクダサイ」
ピンクはわたしにこう言ったあと、癌の前に立ちはだかった。そこにはブルーの意思を継いだ背中がものすごいオーラを放っていた。
「ガンソウリダイジン。ドウデスカ?」
「どうですか、とは何かね?」
癌はほっぺたにくるくる模様を描いた漫画のキャラクターみたいな顔で不思議そうに尋ねた。そしてピンクはあのセリフを発した。
「イッカイ、パッピャクエン。イッカイ、ハッピャクエンヨ」
「な、なにい~!」
癌はうろたえた。後ずさりをする。ピンクはなおも癌に近寄った。
「イッカイ、タッタノハッピャクエン。タッタノハッピャクエンナンダヨ!」
ゴ――――――!
ピンクのオーラは凄い!我々は後ずさった。そしてピンクは決めゼリフを言った。
「タッタノ、ハッピャクエンアルヨ―――!」
「うわあああああ――――!」
癌はがくりと膝をついた。そして敗戦を認めた。
「分かったじょ。たった800円なんだにゃあ。じゃあお嬢さん、ボクちんと今からホ○ルに行くじょ~」
わたしの目はきらりと光った。ここであった。
「必殺!必殺!必殺パ――――ンチ!」
ドカ―――――――!
「げふううう――――!」
こうして癌はこの戦に破れた。あえて言うならこの勝利は死んだブルーの魂のなせる技か。我々は手を取り合った。野党議員も大盛り上がりだった。これで日本に平和が戻った。100パー党は降参したからだ。
「やったな、お前たち。よくやった。お疲れさん」
「お疲れさまでした!」
メンバーが声を揃えた。
「さて」
わたしはグリーンのほうを向いた。
「最後の出番だ、グリーン。分かっているな。仕上げはお前に任せる。やってくれるな」
グリーンはこれからの大変さを悟ったように大きくうなずいて返事をした。
「はい」
ここからは僕、グリーンがレッドさんに変わって語らせてもらいます。語り手がいきなり変わって多少戸惑うかもしれないけれど。
そもそも僕たち、国民レンジャーが集ったのは自然な成り行きでした。まず100パー党に怒りを覚えたレッドさんが「求む!100パー党を倒す正義の戦隊メンバーを!」と言いまわっているのを近所に住む僕たちがぽつりぽつりと聞きつけ、国民レンジャーを結成したのです。
そこからは早かった。メンバーたちはお互い訓練を重ね、ついに100パー党に立ち向かう日が来たのです。
作品名:ゆけ!国民レンジャーよ! 作家名:ひまわり