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ゆけ!国民レンジャーよ!

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 と、おばさんがアホ谷に握手を求めるように手を伸ばしながら、手が届くもう少しのところでその場を去ろうとした。その瞬間、チャンスは訪れた。
 ぐんんんんんんんに。
 選挙カーが前進した。そしてその前輪は車の前へ横たわったイエローの腹の上で静止したのだ。
「イイイイイイイデデデデデデデデ!」
 イエローは叫んだ。しかし、まったく気づいてもらえなかった。かまわずおばさんは選挙カーにかけよった。
「きゃあー、うれしいですわあ~。100パー党のアホ谷さんと握手ができるなんて~。感激ですわあ~」
 おばさんはアホ谷の手を固く握った。
「ありがとうございます!光栄です!」
 アホ谷はまんまるい顔に満面の笑顔を見せた。おばさんは喜んだ。
「今度の選挙、入れさせていだだきますわ」
「イイイイイイイダダダダダダダダ!」
 イエローは叫び続けた。いい仕事をしている。わたしは思った。こいつがメンバーでよかった。イエロー、わたしと握手をしてくれ!お前は今、輝いている!
 わたしが思わずイエローにかけよった瞬間だった。おばさんがハっと気づいた。
「きゃあ!」
「え?」
 おばさんの叫びにアホ谷がクエスチョンマークを灯らせた。
「あなたの車、人を轢いてるじゃありませんか!」
「な!なんですと――――?」
 我慢したかいがあった。ようやく気づいてもらえた。さあ、これは一大事だ。わたしは早速、この状況をごまかした。
「僕の友人が貧血で倒れてしまったんです。ところがそれにも関わらず、この選挙カーは僕の友人をあろうことか轢いてしまったのです!こんなことが許されていいのでしょうか!」
「ちょっと早くどいてあげてよ!」
 おばさんはアホ谷に怒鳴った。
「あ、は、はい!」
 選挙カーはすぐにバックした。
 ぐんんんんん~~~。
 イエローの腹の上から車がどいた。
「イエロー!大丈夫か!この選挙カー、めちゃくちゃヒドイな!」
「た、助けてアニキ……。おれっちもう……」
「イエロー!イエロー!」
「がく。」
 アホ谷たちは車から降りて、わたしが抱きかかえるイエローを顔面蒼白で見ていた。そして言った。
「どうぞ、ご内密に!ご内密にい―――!」
 おばさんは冷ややかな視線をアホ谷に向けた。
「新聞社に言ってやるわ。もちろん私は一票たりとも入れないから」
「がーん!」
 おばさんは言い切った。そしてその場から去ってしまった。
 アホ谷はわたしの手に500円を握らせた。
「これで勘弁してくれ!」
 とそれだけ言い残し、その場をまた去っていってしまった。

 死んだフリをしていたイエローは言った。
「成功ですね。でも轢かれるのももう何回目だろ。いつもは当たってぶっ飛ばされるんですけど、今回は乗られるという轢かれ方だったんで新鮮でしたよ~」
 イエローは仕事を満喫したようだった。それを見ていた心配性のグリーンがまた言った。
「イエローさん、本当に大丈夫だったんですか?」
「ん?」
 イエローは不思議そうな顔をした。
「だって、とっても痛そうだったから……」
 すると、イエローは冷静にこう答えた。
「甘く見ちゃいけないよ、坊や。これは全て作戦だったんだ」
「作戦って言われても……」
 グリーンはまだ納得しないようである。しかしイエローは続けた。
「さっきのおばさんいただろ?あれは仕込みなのさ」
「え?」
 驚くわたしとグリーン。後ろでは出番はまだかと大人しく待っていたピンクやブルーも驚いていた。
「あのおばさんはおれっちが雇った仕事人だ。それと車に乗っていたアホ谷以外の奴。あいつらはおれっちのマブダチだ」
「ええ!」
 目を丸くしている全員にイエローは得意げに話し始めた。
「この作戦が決まった瞬間、おれっちはまず100パー党の選挙カーに乗ってバイトをしているダチにメールを送った。そしてここに現れるように支持した。それからそこへ、仕事を依頼したアンチ100パー党のおばさん登場ってわけだ。敵を騙すにはまず味方からってな。アニキ、皆……、言わなくて悪かった。これがおれっちの……、当たり屋の仕事なのさ」
「そうだったのかあ――!」
 全員が驚きの声を上げた上、グリーンはイエローに尊敬のまなざしを送った。
「轢かれたことには違いないですが、イエローさんはすごいですね!」
 どうやら、グリーンのアニキはイエローになりそうだ。
 我々の絆はこの作戦で深まった。今日の夕刊には『100パー党の選挙カー、男性を堂々と轢き続ける』と載るに違いない。そして我らはさらに敵を倒すべく、カッコイ議事堂へと向かうのであった!

 ブルーの調子がおかしくなり始めたのは、イエローが敵にダメージを与えてからすぐのことだった。
「な、なんだか変だなあ~」
 ブルーは胸を押さえ始めた。
「ド、ドシタンデスカ?」
 エジプトピンクはブルーに駆け寄った。
「ええい、お前は近寄んな!なんだか具合が悪いんだよ……。ちくしょう!カッコイ議事堂は目の前だっていうのに!」
 怒りをあらわにしたブルーの瞳は悔しさであふれていた。
「シッカリシテクダサイ!ダイジョウブデスカ!」
 ピンクはなおもブルーに近づこうとする。それを中年ブルーは追い払う。わたしはしゃがみこんだブルーの肩に手をかけた。
「どうしたのだ、こんな時に。ブルー、敵のアジトはもう目の前だぞ!」
 そう言ったわたしの手の上にブルーがそっと手を置いた。
「悔しい。ワシは悔しいよ、リーダー。だけど……だけど……」
「だけど、なんだ?」
「エ○ズが発病したみたいだ……」
「な、なにい――!」
 メンバーはのけぞった。しかし、すでにエ○ズを体に宿しているピンクはやはり、とうなだれた。そこからブルーとピンクの愛情物語が始まった。
「リーダー、ワシはもうダメだ。だがピンク、これだけはお前に伝えたいんだ。ワシらが出会ったのはそう。ワシが女房と別れ、一人エジプトに傷心旅行に行った時だった。ワシは見知らぬ土地の風に吹かれ、心を癒そうとした。そんな時、ピンク、君が声をかけてくれたな。『イッカイ、ハッピャクエン。イッカイ、タッタハッピャクエンヨ』。そう言った君は若く、そして輝いていた。ワシはそんな君に若かった妻を重ねた。そして誘われるまま宿に入った。そしてエ○ズになった。あっさりなった。『レンジで3分』ではないが、それはまるで、インスタントエ○ズだった。そんなワシを見て君は笑ったね。ワシはあまりの情けなさに笑うしかなかった。そして君と手をつないで花畑で踊った。そしてワシはそのまま帰国した。そしたらなんと、君も日本に来ていた。まさかの思いだった。ワシは振り切ろうとした。降りかかる不幸を、君を振り切ろうとした。今の今までワシは君に冷たくしてしまった。でも発病した今、ワシは自分の気持ちに気づいたよ。ピンク、愛している。君を愛している。ワシはもう駄目だ。リーダー、みんな……。これからはピンクの住む日本に美しい花が咲き誇るように未来を取り戻してくれ……、頼む。頼んだ」
「ブルーサン、ワタシ、アナタガシンダラ、スグエジプトカエリマス」
「ぞ……、ガク。」
 メンバーはピンクに冷たい視線を送った。
「ピンク、そういうことは今言わなくていいから」