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NIGHT PHANTASM

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14.終わりの風景(5/5)



「ここかしら」
「ここ、だろうね」

目印という目印は、大きな木一本、ただそれだけだった。小さい頃は、この木にブランコを下げてもらい二人で遊んだものだ。
木は生きていた。
だが、家は死んでいた。
面影を残さないほどに焼かれ、かろうじて家であった証拠の骨組みが残っている。ただ、それだけだ。
大切にしていたものは全てここで死んだ。
両親も。
そして、二人も。
「……そうか、帰る家は、このありさまか」
――あるいは、違う形で家は引っ越したのか。そう思ったが、ルイーゼはあえて口にしなかった。どうにせよ、この後に訪れる場所だ。
そこで真実を見てからでも、言うのは遅くない。
「ぬいぐるみ、燃えちゃったわね」
「え?」
「誕生日に貰ったじゃない。私がうさぎで、姉さんが猫。これくらい大きくて、部屋がずいぶんと狭くなったわ」
そう言ってアンナは無邪気に両手を広げてみせた。それを見て、苦笑いをするルイーゼ。
「そんなに大きかったら、家に入らないだろ」
「でも、本当よ。これくらいあったわ。よく抱きしめてたから、覚えてる」


「ここが、庭かな」
「ああ、あそこに倉庫があったの。ナイフはね、奥の……」
「アンナ」
「何?」
「大きくなったね」
え、とアンナは詰まった後――こらえきれないと笑い出した。笑いすぎてお腹が痛いとしゃがみこみ、つられてルイーゼも声をあげて笑う。
しばらく、二人の笑い声が死んだ村に響いた。
「いきなり何を言い出すかと思ったら」
「前はあのナイフ持つのに、いっぱいいっぱいだったろ」
「まあね」
そう言いながら、シースに収まったサバイバルナイフを取り出すアンナ。ペンを回す応用のように、あるいはお手玉のようにして器用に手でもて遊んでみせ、刃についた小さな埃をふっと息で払った。そして、ルイーゼを見つめて言い返す。
「その分、姉さんも成長したわよ」
「そうかな?」
「そうよ。だって私、ルイーゼみたいに刀は振るえないもの。いまだに慣れないから、ナイフばっかり使っちゃう」
「私だってアンナにはなりきれないさ。練習しても銃弾は的に当たらないし、ナイフさばきもよく見ると隙と無駄だらけだ、こんな調子で一人になれるのかな?」
「なれるわよ。だってほら、今だって……世界には私と貴方一人きり。二人なんかじゃない」
ナイフを収め、伸ばした手は半身が受け止め握り返す。穏やかな日差しの中で、本当に世界には自分達しかおらず、皆消えてしまったんじゃないか――そう思わせるほど。
「私は君で、君は私で……ここで生まれた。そして、死んだ。二度目の人生でも、君と巡り会えた」
「二度目じゃないかもしれない。違う世界で、出会って、同じように惹かれあって、別れを経験したのかもしれない――それでも、ここにいる」
「次もまた会えるかな」
「会えるわ」
「言い切れる?」
「ええ。私が、貴方を探すから。ほとんどの記憶を失っても、面影を覚えている。貴方の匂いを覚えている。貴方の温かさを覚えている。優しさを、覚えている」
「それは大変だ。私も、君を探そうかと思っていたんだ。お互い探しまわっていたら、会えないかもしれない」
「お互い惹かれあって探しているのなら、会える可能性だって増える」
「非論理的だ」
「そうね」

手を繋いだまま、二人は笑った。心の底から、奇跡を信じて、そして、世界の終わりを垣間見て。この地獄が終わったら、二人で静かに暮らそう。
生まれ変わったら、人間として生きよう。たとえどんな形でもいい、巡り会えたならその時はまた愛を繋げたい。
だから何も、心配いらない。


作品名:NIGHT PHANTASM 作家名:桜沢 小鈴