レイプハンター 前編
「そう、良かった。また旅行に行こうね、元気になったら」
「うん、そうしよう。玲には電話しておくから、じゃあ・・・」
玲にその場から電話を掛けて心配しなくていいから、と話した。
自分の部屋に戻って意識は再び知的生命体と合体した。
「まずは電話を掛けよう」翔子は記憶した番号に携帯から電話をした。登録されている自宅の電話は留守電に変わった。
翔子が聞いた「前田」と言う苗字ではなかったが、きっと偽名を使ったのだろうと疑ってかかった。
とりあえず登録されている住所に車で向かった。ヤナセの顧客リストには同じ住所で二台登録されていた。前田ではなく
松下浩介名義でS500、松下修名義でE400の二台であったが、当日ナビを受信していたのは修名義のE400というモデルの
セダンで黒色だった。カタログを見て翔子は自分が乗せられた車種と同じだったか記憶を辿っていた。
夜のそして雨の中はっきりと車種を限定できるほど記憶は定かではなかった。生命体が翔子を見たときはすでに
車内だったから、外観の記憶は残っていない。カタログのインテリアを見ながらグローブボックスの色とか、
ハンドルの形とかを眺めていたが、はっきりとした結論は出せなかった。
やがて翔子は持ち主の家に着いた。立派な建物でレンガ色の外観と三台が並んで収納されているだろう大きさの
シャッター付きガレージが備わっていた。車を降りてシャッターの前に立ち知的生命体はじっと見つめた。
念力というのか不思議な力でゆっくりとシャッターが上がってゆく。
何のことはない、電動シャッターのスイッチをONにしたのだ。遠隔操作は得意な分野で自分が居た惑星では意識生命体に
変わることが出来たほとんどの存在は言葉を持たないから強い電波エネルギーを出して会話とあらゆる動作や作業を
可能にしていた。
翔子の意識はまだ戸惑っていたが、自分の中にいるもう一人の生命がそうさせることには慣れてきた。命の恩人でもあり
これから自分が考えている犯人追求には欠かせない力だと頼もしく感じている。
シャッターが開けられたが驚いた様子も見受けられずに住人が出てくることも無かった。そして、ガレージは空っぽで
あった。そのままにして、少し離れた場所で車が戻ってくるのを待つことにした。
山の手にあった車の持ち主の家からは振り向くと海が見えた。夏の日差しから秋の気配を感じさせるような風が吹き抜ける。
こんな環境の良い場所からそう遠くない舞の家の近くであんな恐ろしいことが起こっただなんて今でも信じられない。
もし自分の中にいる生命体に助けられなかったら、今頃墓場の中で灰になって眠らされていただろう。そう考えると、
何か強い運命が感じられる。犯人を探し出して復習するだけですべてを終わらせて良いものか、翔子は考えていた。
自分の中にいる生命体が外に出てゆかないのなら自分にはもっと出来ることがある、いやしなければならないことが
あるんじゃないかと思い始めた。
翔子として尋ねてみた。
「疑問を解いてください。あなたはどこから来られたのですか?何故姿を持ってないのですか?」
「キミの身体の中に入ることで私の遺伝子生命体は新しく命を吹き返した。この身体は亡んでも次の身体で私は存在
し続けることが出来る。どこから来たといわれても答えることは出来ない。なぜならあなたには想像すら出来ないほど
遠く、いにしえの事だからだ。先ほど心配していたことに答えよう。私は翔子としてこの身体が亡びるまでここに
存在する。肉体の限界が来ても意識は今と変わらないから、別れは突然来るだろう。今からその事は答えておく」
「どういうことなんですか?おばあちゃんになっても今と同じ意識にあるということなの?」
「正しくは、私の意識があるということだ。キミの意識は殆ど無くなっているだろう、悲しいことだけど」
「そうですか、人間ですから仕方ないですね」
「そうだ。命には限りがある、だから子孫を残して大切なことは遺伝子として子孫に伝える。これが生命体の基本だ」
「あなたはそうじゃないのですね。どうしてそうなれたのですか?」
「むつかしい質問だな。私が話すことは理解出来ないだろう。科学者だった自分は永遠の生命を手に入れるため
肉体から意識を取り出して遺伝子生命体になる技術を開発した。しかし、その過程で大きなミスが起こり大半の
生命が失われてしまった。妻も子供も犠牲になった。国家プロジェクトとして技術を盗まれての事だったが、責任は
私にあるのだ。滅び行く自分の惑星の生命体をなんとしても残したいと自ら最終的に遺伝子生命体に変えて、ガラス玉の
宇宙船に封じ込め、再び同じような惑星を見つけられた時に目覚めれるようにセットしたのだ」
「遠い宇宙の彼方から来られたと言う事ですね。信じられないことですが、私には奇跡としか思えません。あんな事
が起こって、命の危険にさらされた自分がこんな風に元気にしていられるなんて」
「キミを選択できて良かったと思っているよ。われわれの星で失われた純真な感情を持っていたからね」
「そうですか・・・でも私の純潔は奪われてしまいました」
「それは、あの男の行為のことを言っているのか?」
「そうです」
「苦痛だったのか?」
「もちろん・・・」
「私の古い記憶の中で、男と女が同じような行為をしていた時代があったことを覚えていた。しかし、あの日の
キミは望まれているようには感じられなかった。違うかい?」
「無理やり犯されたのです。殺される恐怖心からされるままになっていました」
「犯人を見つけたら、どうしようと思っているんだ?」
「今までやって来たことを自白して罪に服してもらいます」
「裁判をするということだね?」
「そうなります。辛いけど、犯罪を許せないから告訴します」
「男は罪を償ってまた同じ事をするとは考えないのか?」
「解りません」
「私の国でも、何度も犯罪を繰り返した奴は多かった。永遠の生命が得られるようになったら死刑なんて無いからね」
「死刑ですか?そこまでは考えていませんでした」
「犯罪の無い平和な国家はがんじがらめの拘束や厳しい罰則で為しえるものではない。私の国でも理想と現実は大きく
異なってしまった。犯罪者は徹底的に取り締まらないと繰り返し起こされてしまう。自由と個人の尊厳を保ちながら
生命を危険に至らしめる行為をするものに対しては、反省ではなく死を持って臨むしかないよ。安心と安全と自由を
約束する代わりに、乱す者には厳しい処罰を与えないといけないんだ。それが、残されたものの不安を解消する」
「人は何らかの理由で過ちを犯します。反省して立ち直る機会を与えないと可哀そうです」
「キミは奴を許せるのだね?」
「それは・・・」
「それはなんだい?」
「私は許せません。あいつは今までにも罪を犯しています。連続レイプ犯なんです」
「じゃあ、キミが奴を始末してそして同じような奴らを始末するレイプハンターになれ」
「レイプハンター?に私がなれと・・・殺人者になれと言われるのですか?」
「殺人者ではない。犯罪者を特に女性を狙ったレイプ犯を排除するハンターになるということだ」
「ハンター・・・獲物を狙う、警察には知らさないと言う事ですね」
作品名:レイプハンター 前編 作家名:てっしゅう