夜のビデオカメラ
紗英さんの笑顔で僕はあっさりと決断した。
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「もしもし? 啓一か?」
紗英さんは先に帰り、僕は啓一に電話してビデオカメラについての計画を話すところだった。
「んだよ、今いいとこ」
結局、啓一は大学を休んだ。大体の想像は着くが一体なにをしているのだろうか。
「ビデオカメラで部屋を録ってみようと思うんだ」
「......ちょっと待ってくれ」
そう言って携帯の奥からガタガタと音が聴こえた。啓一が移動しているのだろう。女性の声も僅かに聴こえる。それで僕は、今日一日啓一が何をしていたのか大体の予想はできた。
「よし、いいぞ。ビデオカメラはあるのか?」
どうやら廊下のような場所に出たようで、啓一の声が響いて聴こえる。
「うん。家にある」
「暗視装置は?」
「ないと思うけど、部屋の豆電球を付けておくよ」
「そうか......バイトは?」
「一週間休み取った」
「じゃあ、心配ないな。何かあったらすぐに俺に言えよ? できる限りの事はしてやるから」
「うん。ありがとう」
割りと真剣な啓一の言葉は心強かった。彼なら僕の身に何かあっても任せられる気がした。
「んじゃ、俺もベッドで頑張ってくるわ」
声が一転していつもの軽さを感じさせる声になる。
「ほどほどにな」
電話越しに僕たちは笑って、軽く言葉を交わすと通話を切った。
僕は大学を出てアパートへと帰る。
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帰った僕はまず部屋の戸締まりを確認する。日中は大学に行っていたから当たり前だが、すべて鍵が掛かっていた。
さて、いつもならバイトの時間だが今日から一週間休みだ。店長は渋々ではあるが了承してくれたから問題はないだろう。日頃の真面目な態度が突然の連休を可能にした。
次にビデオカメラだ。確か、実家から持ってきた物があるはずだ。
僕は押し入れの中を探してビデオカメラをひっぱり出した。実家でもあまり使っていなかったから新品同様だ。
説明書に目を通して録画の仕方を確認する。
試しに部屋を録ってみたが、動作に問題はないようだ。
「HDDに保存?」
説明書にそう書かれていた。僕の機械音痴は昔からだ。
しばらく説明書と格闘し、何となく理解した。
どうやらビデオカメラに内蔵されたハードディスクというものに映像が記録されるらしい。
もっと分かりやすく書いてくれ、と心から思う。
ビデオカメラの設置場所は寝室を見渡すことのできる、隅っこのクローゼットの上だ。録画を気づかれないように適当な物を置いて目立たなくする。
準備はできた。
後は、夜を待っていつものように眠るだけだ。
何も考えないよに窓から見える夕日をぼんやりと眺めながら夜を待った。