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夜のビデオカメラ

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それでもチャンネルを変えないのは、怖い物見たさだろうか。

教科書を眺めながらテレビに眼を配る。

古い廃墟に見たことないアイドルを夜中に一人で撮影させる、という企画のようだ。
しばらくして、テレビから女性の悲鳴。どうやら幽霊を見たらしく、その方向に手のカメラを向ける。

そこには白い服に身を包み、長い黒髪の女性が、かなりはっきりと映っていた。
女性はヒステリックに叫びながら走って引き返す。

......一人で暗い廃墟に行ったら、例え幽霊でなくとも突然出てきたら怖いだろう。

番組の成り行きを見ているうちに、僕と無関係には思えなくなってきた。

特に『心霊体験再現VTR』などというコーナーで一人で暮らしている女性の部屋が朝起きたら荒らされていた、という話しは最早僕の体験だ。

僕は教科書を捲ろうとしていた手を止めてそれを見ていた。

荒らされた様を見た女性は、その日から不可解な現象に悩まされる事になる。
壁の向こうから異音がしたり、窓に手形があったりと、そこら辺はよくありそうな作り話の範疇だった。
しかし、似ている点がいくつかある。

最終的に、彼女は霊的な何かに押し入れに引きずり込まれてしまう。

「......冗談じゃない」

僕はテレビの電源を消した。
とてもじゃないが見ていられない。無駄に恐怖感を煽られてしまった。

気分転換に何か飲もう。飲みかけのジュースがあったはずだ。

そう思って立ち上がった時、不意に携帯が鳴った。
啓一からだ。何だろう。

「もしもし」

『あ、凌? 今暇?』

啓一が十二時過ぎて電話を掛けてくるときは大体が遊びに行く時だ。

「暇だけど遊びに行くのは無理だ」

『つれないなぁ、だったら......』

急にノイズが入った。テレビでよくある砂嵐のような音が不規則に聴こえる。

「ノイズが入っているな。よく聴こえないぞ」

『......』

ついにノイズのみとなってしまった。

「おい啓一」

『......ほし......い......』

ノイズに混じった低い女性の声が間違いなく聴こえた。
一瞬で背筋が凍る。

『ころ......して......やる』

次の言葉が聴こえる前に僕は通話を切った。
しばらく携帯を見つめる。頭が混乱していた。
整理がつかない。

もう一度掛け直してみるか。
駄目だ。また聴こえてしまったら、きっと頭がおかしくなってしまう。

怖い。

あの女性の声は明らかにヤバい感じの声だ。
ついさっきテレビで見た白い女が目に浮かぶ。
僕は生唾を呑んだ。

また電話が掛かってきた。また啓一だ。
またあの声かもしれない。

出るかどうか躊躇っていると、やがて切れた。

僕はひとまず安堵する。

また携帯が鳴った。今度はメールだ。
さすがにメールで怖い思いはしないだろう。

メールは啓一からで内容は『ドッキリ大成功(笑)』だった。

見た途端理解した。

すぐさま啓一に電話をかける。
啓一はすぐに出た。

『もしもーし』

腹が立つくらいに軽快な声だ。

「もしもしじゃねーよ......びっくりしたじゃんか」

僕の心中にあったのは、怒りとは程遠い落ち着きだった。

『びっくりした?』

「した」

啓一の笑い声。

『悪い、悪い。ちょうどホラー番組やっててよ、それ見て掛けたんだ』

そういう事は僕じゃなくて彼女にやってくれ、と思う。

「暇人」

『実際暇だけどな。まぁそろそろ寝るよ』

「はいはい。おやすみ」

『おう。あ、一応気を付けろよ』

「うん。ありがとう」

『じゃーなー』

ぷつん、と電話が切れた。
啓一のさりげない気遣いは好きだ。彼の良い所を一つ言え、と言われたら真っ先にその事を言うだろう。それ以外は知らないが。
それより、そんな気遣いが出来るのなら本気なのか悪戯なのか分からない事は止めてほしい。

僕は一息付いた。

そろそろ寝るとしよう。啓一のおかげでなんだか疲れてしまった。

僕は一通り片付けてから寝室のベッドに入り目を閉じる。

だが甘かった。僕は想像してしまったのだ。
寝室に得体の知れない何かがいることを。
目を開けたら、何かが僕を見下ろしている感じがした。

僕は想像を振り払って別の事を考える。
有本紗英という人物についてだ。彼女の事を考えれば、そんな妄想などいつの間にか消えるだろう。

今日一日、間を置いて二回も彼女に会った。学食で話し掛けられた時は、今日は運がいい程度にしか思っていなかったが、コンビニで会った時は運命的な物を感じた。

明日また会えたらいろいろ訊いてみようと思う。

無意識の内に意識が遠退いて行った。

作品名:夜のビデオカメラ 作家名:うみしお