夜のビデオカメラ
「難しいですよね。僕もついて行くので精一杯です」
僕は彼女との会話に集中していた。
「単位は取ってますか?」
「一応は――苦しいですけど」
「凄いですね。私......今度の単位落としそうで......」
「ヤバいですね。何の単位ですか?」
「えっと......金本先生の授業です」
「あ〜。あの先生のレポートはコツがいるんですよ」
そう言って僕は昼食の間、彼女にレポートのコツとやらを教えていた。実際、コツがあるのかと言われると、啓一の受け入りだがある事にはある。
女の子とまともに会話するのは多分二年ぶりだろう。バイト先の女子高校生にさえ見向きもされない僕には新鮮な時間だった。
それに加えて彼女は、だんだんと話していくうちに打ち解けてくれたのかわりとよく喋ってくれた。いつかの啓一の女友達とは比べ物にならないくらい話し易かった。
「有本 紗英って言います。糸へんと少ないとを書いて、英語の英でサエって読みます。もしよかったら......またお話してくれませんか?」
僕は「はい」と即答した。断る理由はないが、こう改まって言われると恥ずかしい。
――――――――――――――
「紗英さんねぇ......」
午後の講義――僕と啓一はいつもの席に座り、ぼーっと必死に話す講師を眺めていた。
早速食堂での事を話したが、恋人と会っていた彼は興味がないらしい。
「で、いるの?」
僕もそれが気になっていた。
紗英さんは僕や啓一と同じく経済学部だと言っていたのに、この講堂にはいないからだ。今の講義は必修ではないからいないくても不思議ではないが。
「いないね」と軽く答える。
「お前に話しかけるなんて、その子も物好きだな」
一言多い。しかし啓一の言う事はもっともだ。
食堂の隅で一人昼食を食べる男など誰も声を掛けない。しかも可愛い女の子なんて、もはや都市伝説だ。
「それで? どうすんの?」
「とりあえずもう少し様子を見るよ」
「策士だねえ」
「......やっぱり行こうか」
「早とちりは禁物だぜ? こういうのはじっくり時間を掛けた方がいいんだよ」
僕は唸った。
啓一の言うようにじっくり待つのもいいかもしれないが、それはそれで不安だ。何せ相手はわざわざ僕のいた寝室を荒して置いて何も盗らなかった。
きっと空き巣に馴れているに違いない。そして怯えている僕を見て笑っているのだ。
「しかし凌も隅に置けないなあ。一人でいるところを話し掛けられるなんて」
「は?」
「いやだってそうじゃん。言ってみれば逆ナンだぜ? 貴重な経験だな」
「なあ、啓一......」
「ん?」と間の抜けた顔で僕を見る啓一。
「やっぱ何でもない」
「おいおい。気になるじゃんか」
「おやすみ」
この講義も寝ることにした。