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「お話(仮)」

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 見詰め合うクリスとアンバー。
 直後、そんなやり取りを裂くかの如く、振り上げられた太刀が両者の間の壁を砕いた。
「オイ。何ゴチャゴチャ喋ってやがる? まだ勝負はついてねェぜ?」
 武器を構えたカムイが再び立ちはだかり、構えた武器の矛先をアンバーに向けて彼は言った。
「てめェか? 散々やってくれた、ボディーガードの“アンバー”って奴は」
「いかにも」
 姿勢を正してカムイに向き直り、殺気立つ相手を見据えてアンバーは続けた。
「カムイ殿。実はその件でお話がございまして」
 そう言うと、彼は片手をシャツのポケットに入れ、取り出した何かをカムイの前に差し出した。
「!」
 ――一対の、小さな紅い珠飾りのピアス。
「こ、こいつは……『紅真珠』?」
「話は全て、お嬢様からうかがいました」
 石の中で視線が交わり、アンバーは淡々とした口調で事の経緯を告げた。

(アンバー!)
 さかのぼること少し前。
 洞窟の出口付近でアンバーの姿を見つけたビアンカは、一目散にその背中に飛びついた。
 フリルのワンピースがふわりと揺れ、同時に髪間からのぞく真っ赤なピアス。
(お嬢様、ご無事で何よりでございます)
 アンバーの瞳が『紅真珠』を見詰める。
 すると、それに気付いてか気付かずか、ビアンカはその傷ひとつない指を耳元に伸ばすと、静かに両耳からピアスを外して言った。
(お願い。これを、あの人にあげてきて)
(お嬢様?)
(私、アンバーとの約束を破って、中であの人達にひどいことしたの)
(ですが、その石は私とゴルゴンゾーラ家にとって……)
(お願い。知ってるけど……だけど、もうこれ以上、誰にも傷ついてほしくないから……。それに私、助けてもらったのに、「ありがとう」も「ごめんなさい」も言えてなくって……)
 ずっと我慢していた涙が溢れた。
(アンバーにも、ちゃんと言わなきゃ。約束を破って、本当にごめんなさい。それから……)
 そのままアンバーの胸に顔をうずめ、ビアンカは涙声で囁いた。
(……今まで、どうもありがとう)
 アンバーはビアンカを優しく抱きしめ、その肩越しにスキュラを見た。
(どうやらあなたは、私が思った以上の働きをなさったようですね)
(無論だ。我を侮るでない)
 一言そう返し、スキュラは素気なく背を向けた。

「カムイ殿。ひとつお聞かせ頂きたい」
 一通り話を終え、アンバーが問う。
「あなたはこの『紅真珠』を手に入れて、何をされるおつもりですか?」
「決まってんだろ」
 カムイは小さく笑い、
「プロポーズだよ。悪ィか?」
 アンバーの手からピアスを受け取り、照れ臭そうにそう言った。
 すると、今度は横からクリスが口を挟む。
「ねぇ、本当にいいの? アナタ、確かその石のためにゴルゴンゾーラ家に……」
「構いませんよ。力さえ封じれば『紅真珠』とて、術者以外の人間にとってはただの石ころ。悪用さえされなければ良いことにしましょう」
 微笑むアンバーの表情は、どこか荷が下りたように晴れやかだった。
「それよりクリスさん、どうしますか?」
「そうだったわねぇ」
 クリスにも決断の時が迫っていた。
 じらすように両腕を組んで思案する。と、その指先が、ポケットの中で何かに触れた。
「ねぇアンバー。ひとつ、アタシのお願いも聞いてもらえないかしら?」
 また、返しそびれてしまった。溜息まじりにクリスは微笑み、そして言った。
「コレ、後であの子に……サラちゃんに渡してほしいの」
 そのまま、彼は背後のアンバーに何かを投げた。
「約束破っちゃってゴメンナサイ、って。でも、いつか必ず会いに行くって、そう伝えてもらいたいの」
「クリスさん、それは……」
 ――サヨナラの伝言。そして。
「それがアタシの答え」
 空中でアンバーがそれを受け取った直後、手首であの紋章が鋭く光った。
「確かに」
 頷くアンバーの視線の先で、青白い光の球が大きく膨らみ、魔物のように大口を開けたと思うや否や、それは瞬く間にクリスの体を呑み込んだ。
「っ!」
 途端にのしかかったエネルギーを堪えながら、クリスは笑う。
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹