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「お話(仮)」

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 逃げ場を失った所を狙って、とどめをさしに掛かるカムイ。
 クリスは咄嗟に武器でそれを防いだ。
「!?」
 ぶつかり合う激しい金属音と同時に、大鎌『ローズ・マリー』の刃が青白く光った。
 次の瞬間、膨れ上がった光の中から姿を現す、巨大な二本角の青鬼。
「蒼炎の……鬼?」
 クリスが呟く。それはまさしく、かつて雪山で出会ったあの青鬼だった。
 しかし、あの時とは違っていた。
 ――『ローズ・マリー』が、禍々しい殺気に震えていた。
「やっぱりてめェか」
 俯き加減にカムイが低く笑い、
「その殺気、やっと尻尾を出しやがったな、バケモノめ!!」
 異形の鬼めがけて武器を薙ぐ。と、そんな彼に、ゆっくりと鬼の躰(からだ)が向いた。
「ダメ!」
 クリスが両者の間に割って入る。
 しかし直後、彼の意思とは裏腹に、蒼炎のエネルギーに共鳴した『ローズ・マリー』が暴走し、カムイの腹部に切りかかる。
「くっ!!」
 咄嗟に後退し、体勢を立て直すカムイ。
 よけきれなかった攻撃によって着物は左右に裂け、滴り落ちた血が地面を点々と朱に染めた。
 勝負は見えていた。このままではカムイが殺される。
「やめて!」
 クリスは暴走する武器を必死に押さえつけて言った。
 抗うほどに、全身を灼かれるような負荷が増してゆく。
 自分の身が持たない。そう感じた直後、クリスの脳裏を先程のアンバーの言葉が廻った。
(――生けとし生きる物は皆、それぞれに内なる生命エネルギーを秘めています。ですので、それらを具現化させ、媒介となる石の中へ注ぎ入れること)
(原理としては、石でなくとも構いません。ただし、その負荷に耐え得るものであれば……ですが)
「!」
 瞬間、クリスの内にひとつの考えが浮かんだ。
「つまり、そういうコト……?」
 しかし、それは失敗の許されない賭けでもあった。
 チャンスはおそらく一度きり。外せば、恐らく自分もカムイも――。
「死ねやァァ!!」
 彼の決断を待たず、カムイの突き攻撃がクリスに迫り、それに呼応するように、『ローズ・マリー』に宿った蒼炎の狂気が膨れ上がる。
 クリスは叫んだ。
「……お願い……、止まって!!!」



 それは、どこか奇妙な光景だった。
 ビアンカの衣服はすっかり擦り切れ、鮮やかだったピンク色はくすんだ埃にまみれていた。
「もうよせ。お主ごときの力では、いくらやっても時間の無駄だ」
「何よ。やってみなきゃ分からないわ。ケガ人は黙ってなさいよ」
 不思議と痛みは感じない。
 力を振り絞って土砂を掘るビアンカを横目に、スキュラは考えていた。
 一体、何が彼女にそこまでさせるのか。おそらく、彼女はただ無知なだけなのだろう。
「……好きにすれば良い」
 スキュラは呆れ顔で言った。しかし、その声に先程までの冷たさはなかった。
「?」
 ふと、ビアンカの指先に何かが当たった。
 泥の中から掘り出してみると、どうやら小型の宝石のようだ。
 あちこち傷が入り、ひび割れた銀色の石。
「『SILVER・EYE』、そんな所にあったか……」
「え? 何よソレ?」
 次の瞬間、ビアンカの手中で、衝撃に耐えかねた『SILVER・EYE』が音を立てて砕け散った。
「!?」
 途端にスキュラの体が透き通り、まるでそれは水の如く、たちまち地面に溶けて消えた。
 一人その場に取り残され、困惑するビアンカ。
「うそ……。どういうことなの? ねぇ、スキュラ! スキュラってば!!」
 ビアンカはただ、声を張り上げてその名を呼び続けた。
 ――と、その時。彼女のすぐ足元に人影が差した。
 気配を感じてビアンカが振り返った刹那、その視界に映る真っ赤なストール。
「誰!?」
 怯える相手を目で捉えたまま、女は無言で伸ばした褐色の手で、そっとビアンカの拳を掴んだ。
 一瞬、その手首に鎖形の痣が見えた。まるで、長い間牢獄に繋がれていたかのような痣が。
「はなして!」
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹