小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

「お話(仮)」

INDEX|79ページ/115ページ|

次のページ前のページ
 

(即ち、『輪』は我が一族そのものと言いますか……クリスさん、ここまで宜しいですか?)
(そ、そうね。聞いた所で、アタシ達一般人にはよく分からない気がしてきたわ)
 そこまでが、図形に関する概念的な説明だった。
(術者は自然界の様々な物からエネルギーを取り出し、それを石の中に封じ込める。そして、結果として作った石の数だけ、術者の体には契約の『輪』が刻まれていきます)
 そっとシャツの襟を折る、アンバーの手元に刺青がのぞく。
(作られた石は決して外部へ出してはならない。それが我々の掟……。そして、先日ゴルゴンゾーラが娘の誕生日プレゼントにと強引に買い取った宝石、『紅真珠』もその一つでした)
(つまり、アナタはそれを取り戻すため屋敷へやってきたワケね? 不思議な石使いさん?)
(原理としては、石でなくとも構いません。ただし、その負荷に耐え得るものであれば……ですが)
 全てを理解したわけではないが、だいたいの内容は分かったような、そんな気がした。

「それにしても、よく分かりましたね」
「あら、何が?」
 ふいにアンバーが口を開き、囁くように後方のクリスに言った。
「お嬢様のピアスです。考えてみれば、クリスさんがあれを実際見たのは、薄暗い酒場と夜道のみ。それだけで『紅真珠』だと気付くとは、あなたは相当勘がいい」
「あぁ、ちょっとね。前によく似たピアスを見たことがあって。それで気になっちゃっただけよ」
 瞼に焼きついて離れない、シヴァの横顔。そして――。
「……」
 もうひとつの同じ顔。
 途端にクリスの内に疑問が生まれ、彼は黙り込んだ。
 仮に、シヴァとノアの持つ石が『紅真珠』だとすると、これから一体何が起こるのだろうか。
 そして、どういう経緯があって、本来対であるべきピアスは、二人の主の元へと分かれるのか。
「分かれましたね」
 おもむろにアンバーが足を止めた。
 見ると、目の前の道が左右に分かれている。
「どうするの?」
 クリスが問う。すると、アンバーは探るように双方の道を見据えた後、静かに首を横に振った。
「こうも邪気が洞窟全体に広がってしまっては、標的の位置が特定出来ない」
 とは言え、片方ずつ調べている時間はなさそうだ。
「仕方ないわねぇ」
「止むを得ませんね」
 背中合わせに頷き合い、直後、二人は同時に別々の道へ散った。



 焼け焦げた臭いがカムイの鼻をつく。
 くすぶる煙、破壊された鉄格子。彼が駆け戻った時、既にそこにビアンカの姿はなかった。
「おカシラ……その、気付いた時にはこの通り、もぬけのカラで。あのガキも、こないだ城の牢からかっぱらってきた女も、とにかく誰もいなくなってて……」
 瞬間、伸びたカムイの拳が手下の鼻先を通過し、すぐ目の前の壁を砕いた。
「もぬけのカラ、だとォ?」
 地面に転がった動物の死骸。翼を半分失った小鳥が、カムイの足元にすり寄ってきた。
「畜生……ッ! なぁ、嬢ちゃんよォ、こいつは全部、あんたのボディーガードの仕業か?」
 先程までビアンカがいた場所に屈み込んで呟くカムイ。
 その後、彼はゆっくりと顔を上げ、怒りに燃えた目で吠えた。
「生きてここから逃がすな!! 怪しい奴は、全員まとめてブチ殺せ!!!」

 一方、その頃。
「まさか、あんなことになるなんて……」
 スキュラに肩を抱えられながら、ビアンカが涙目で呟く。
 恐怖で今も手足の震えが止まらない。
「……」
 何が起こったのか分からなかった。
 ただ、“それ”はとても大きくて恐ろしいモノの形をしていた。
(え? ちょっと、何も出てこないじゃな……)
 彼女が瓶の蓋を開けた次の瞬間、視界いっぱいに現れた蒼い影。
(逃げろ!!)
 スキュラがそう叫んで、その場に立ちすくむビアンカの体を抱き上げた。
 そして、二人は燃え盛る炎を飛び越えて退避した。
「蒼炎の鬼。まさか、あれほどとはな」
 ひとまず危機を脱したようだ。スキュラが少し歩調を緩めて口を開く。
「一体どんな使い魔を飼っているのかと思えば。全く、恐ろしい男よ」
 その言葉にビアンカの表情が変わった。
「あなた、まさか知ってたの? 瓶の中に魔物が入ってるって、知っててわざと開けたの!?」
「騒ぐな。落ち付け」
 語気を荒げるビアンカを一蹴し、相変わらず抑揚のない声でスキュラは答えた。
「だったら何だ? お主を外へ連れ出すことが我が任務。おかげで道は分かった。それに……」
 ゆっくりと、死人のようなスキュラの瞳がビアンカを見下ろす。
「蓋を開けたのはお主ではないか」
「っ! で、でも……」
 無意識のうちに視線を反らし、ビアンカは唇を噛んだ。
「やっぱり、後でアンバーに言うから。私、あなたがイヤだって」
「好きにすれば良い」
 冷めた顔で頷くスキュラ。しかし、それはかえって少女の自尊心を傷つけた。
 直後、ビアンカはスキュラの腕を振り払って地面に足をつくと、ひとり距離をとって歩き出す。
「何処へ行く?」
「出口よ。もうあなたの手は借りないわ」
 そう言って、彼女が一気に歩調を速めた――その時だった。
「?」
 頭上に影が差し、見上げた彼女の視界に飛び込む巨大な岩。
 落盤だ。
「しまっ……!」
 咄嗟に駆け寄りながら、スキュラは思った。
 間に合わない。
「いやああぁぁぁっ!!」
 少女の悲痛な叫びは、瞬く間に砂塵の中へ呑まれて消えた。

「お嬢様!?」
 遠くで起きた落石の音にアンバーが反応する。
 嫌な予感がした。
 そのまま彼は身を翻すと、音の聞こえた方向を見据え、全速力で狭い砂利道を引き返した。

 遥か後方で地鳴りが聞こえた。
 落石か。クリスはその場で一旦足を止め、ぐるりと周囲を見渡した。
 前方には広い一本道。背後には、曲がりくねった何本もの細い道。双方の分岐点となるのが丁度今立っている辺りで、少し高くなった天井には粘土や土で補強された跡がある。
「集会場かしら? それにしても、よっぽど岩盤がもろいのね」
 急いだ方が良さそうだ。
 ビアンカ達と合流すべく、彼が再び前方に向き直った――次の瞬間。
「?」
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹