「お話(仮)」
「サラ?」
「そう、サラ。それが私よ」
焚火の炎ごしに、チェリーピンクの唇が微笑む。
「シヴァちゃん、って呼んでもいいかしら?」
その言葉がシヴァの胸を打つ。
あの後、自分が話したのは、名前と、今は追われる身であるという事ぐらいだった。
にも関わらず、目の前の女――サラは怪しがりもせず、かといってそれ以上詮索をするわけでもなく、ただシヴァの傍らに寄り添っていた。
そんな態度がどことなく誰かと似ている気がして、シヴァは俯き加減に言った。
「何故、私に構う」
「理由がいるの? じゃあ、この鳥さんにしましょうか」
サラは手元のバスケットを示した。中では、白い鳥と黒い鳥が、タオルにくるまれて眠っている。
「大丈夫。クロが病気になった時にあげる薬も飲ませたし、きっと朝がきたら元気になってるわ」
そのまま、二人は黙って焚火の炎を見詰めた。
絶え間なく舞い上がる火の粉。何気なく追いかけると、その先には満天の星空があった。
「見て、お星様があんなにいっぱい。今夜は特にきれいだわ」
「星を見るのが好きなのか?」
シヴァが問う。すると、サラは大きな瞳を輝かせながら、ふいに大人びた声で答えた。
「人はみんな、いつか星になる……。なんて、そう信じれば、会えなくたって寂しくないでしょう? だから、昔そう教わって以来、星を見るのは私のクセなの」
「サラ?」
「そうだわ。夜が明けるまで時間もあるし、シヴァちゃんに“星の王子様”のお話してあげる」
にっこりとシヴァに向き直り、歌うように、サラは静かに言葉を紡ぐ。
「ずっとずっと昔、寂しさに泣いていた私の前に現れてくれた、優しい王子様のお話?」
○
――『輪(ロンド)』。
(この図柄のことを、我々はそう呼んでいます)
洞窟を奥へと進むクリスの脳裏で、先程聞いたばかりのアンバーの言葉が巡る。
(人や動物、草花など、生けとし生きる物は皆、それぞれに内なる生命エネルギーを秘めています。ですので、それを具現化させ、媒介となる石の中へ注ぎ入れること……)
エネルギー“∪”を具現化させ、媒介となる石“○”の中へ。