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「お話(仮)」

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「他の獣共が嗅ぎつける前に、片付けるぞ」
「シヴァちゃん……」
 オリバーを安全な木陰に避難させ、背中合わせに立つクリスとシヴァ。
「ふふ。アタシの武器って、見た目より軽くて便利なんだけど、こういう時、小回りが利かないのが玉にキズなのよねーぇ」
 そこまで言うと、クリスは大きく跳び、素早く敵の間合いに潜り込んで武器を薙いだ。
 だが、熊は先程の要領で攻撃を軽くかわし、脇へ動いたクリスを追ってその鋭い爪を振りかざす。
「今よ、シヴァちゃん!」
 クリスが合図を出すのと同時に、数本のナイフが熊の横の宙を舞い、反対側の茂みから躍り出たシヴァが間髪いれずに第二撃を仕掛ける。そして――。
「よそ見しちゃダメでしょ。次はこっち」
 シヴァを追う熊のすぐ後方でクリスの声が響いた次の瞬間、振り下ろされた『ローズ・マリー』の刃が真一文字に熊の背中を裂いた。
「決まったわね」
 朱に染まる夜明けの月。クリスの見詰める先で熊は地に崩れ、その後、辺りには静けさが戻った。



 昨夜、この場所で見た月も、似たような色をしていた。
 銃声を聞いて私がそこへ駆けつけた時、男は熊の爪を受け、もはや虫の息だった。
 すぐに周囲を探ったが、男を襲った熊はすでに立ち去った後のようだった。
 その時、男の体が僅かに動き、彼は血だらけの手で猫を呼ぶと、それを私に差し出して言った。
「頼む。コイツを……町の、酒場の……ルビア、に…………」

 シヴァの腕で黒猫が鳴く。
「それが、あの男の最期の言葉だった」
 事の経緯を語り終え、シヴァは横目でクリスの表情をうかがった。
「それでシヴァちゃんは酒場で、その“ルビア”って人を探してたワケね」
 そう言うと、クリスはひとつ頷き、そのままシヴァの肩を叩いてにっこりと笑う。
「いいわ。アタシも人探しに協力するわ」
「なっ?」
 思わぬ展開に驚くシヴァ。だが、もはやクリスの勢いは止まらない。
「だってホラ、困った時はお互い様って言うじゃない」
「私に構うな」
「いいのいいの。それにアタシ達、きっといいコンビになれるわ」
 この男に説得は無駄だと悟り、シヴァは呆れた様子で溜息をつく。
「それより、この迷子はどうする気だ?」
 話題を変えるべく、シヴァが目線をオリバーの元へ移す。疲れていたのだろうか、少年はいつしか木の根を枕に小さな寝息を立てていた。
「そうねぇー。おうちのベッドで寝かせてあげたいけれど、どこの子かしら?」
 その時、一本の矢がクリスの頬をかすめた。
 綺麗な直線を描き、鋭い矢が後方の杉の幹に刺さる。
 すぐさま二人が矢の飛来した方角に目をやると、少し離れた場所に、弓を構えた人影がひとつ、明け方の太陽を背負って立っていた。
「敵か?」
「待って」
 武器に手を伸ばしかけたシヴァをクリスが止めるのとほぼ同時に、逆光の中、そのおだんご頭のシルエットが声を張り上げて言った。
「そこのあなた達〜ぃ! ただちに! オリバー坊ちゃんを! はなしなさ〜―――い!!」
「……ずいぶん物騒なお迎えねぇ。でも、ちょうど探す手間が省けたわ」
 オリバーをシヴァに託すと、クリスはその自慢の脚力で地を蹴った。
「えっ? ど、どこに消えたのぉ?」
 クリスの姿を見失い、周囲を見回しながら弓の弦を引く少女。
 ――と。
「こんにちは。可愛らしいお嬢さん」
 その声に彼女が振り返るよりも速く、すぐ後方から伸びたクリスの腕が少女の手を掴む。
「敵じゃないわ。まずは落ち着きましょうか。それから、アタシの話を聞いて頂戴」
 至近距離からウィンクを飛ばすクリス。
 すると、見る間に少女の顔が朝日の中で真っ赤に染まった。

「すみませんでしたっっ!!」
 クリスから事情を聞くなり、おだんご頭の少女コウミは深々と頭を下げて言う。
「わ、わたし、てっきり追いはぎか人食いの方かと勘違いして……っ」
「追いはぎはともかく、人食いはあんまりね」
 苦笑するクリスに対して更に謝ると、コウミは眠るオリバーを背負いながら口を開く。
「もしよろしければ、クリスさん達も一緒にお屋敷へ帰りませんか? 坊ちゃんの命の恩人なんですから、大旦那様や奥様も歓迎なさると思いますし……」
 しかし、コウミが言い終わるのを待たず、クリスは首を横に振って返す。
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹