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「お話(仮)」

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 瞬間、眩い光が『GREENEST』から放射状に散った。
 光は瞬く間に城全体を包み込み、その後、跡形もなく何処かへと消え去った。
「扉が……?」
 クリス達の見詰める先、マリアの手元でゆっくりと扉が軋む。
「開いたわ。これも、エンデュミオンの秘宝の力なのかしら?」
「で、どうする? 何だか不気味だけど入るのかい?」
 最初に動いたのはマリアだった。彼女は黙ってクリス達の脇を通り過ぎると、導かれるように城の中へと入っていった。
 クリスが後に続き、一人その場に取り残されるグレーシャ。
「あたいも行くよ〜」
 途端に背筋に寒気を感じ、彼女は足早に二人の後を追いかけた。

「どうかしたの? クロ」
 町の中央通りで、ルージュが肩の上のクロに問う。
「アラシガクルヨ」
「嵐が?」
 その言葉に立ち止まり、昼下がりの空を見上げるルージュ。
 瞬間、乾いた突風が大通りを吹き抜け、赤いテンガロンハットが天高く舞い上がる。
「……私の帽子。持っていかれちゃったわ」
「ドロボー!」
 風にさらわれた帽子は、あっと言う間に見えなくなった。



 森の木々は揺らめき、張りつめた空気が辺りを支配する。
 音はないが、何かがざわめいているような感じが島全体に広がり始めていた。
「……」
 城の正面扉をくぐって少し進むと、大広間らしき場所に突き当たった。
 マリアは黙って瞳を上下に動かした。
 足元には、くすんだ色の絨毯。そして頭上には、埃まみれのシャンデリアが吊るされている。
「ほとんど廃墟だね」
 グレーシャが棚にたまった埃を吹き払って言った。
 窓のない部屋は暗く霞み、何とも言えない閉塞感は、まるで船底にいるような感じさえ覚えた。
「ここも、かつては美しいお城だったんでしょうけれど」
 その時、マリアの手元で『GREENEST』が輝いた。
 光はクリス達の視界を侵食し、気付いた時には、先程までとは全く違う光景がそこにあった。
「これは……?」
 鮮やかな色調の絨毯に、煌めくシャンデリア。辺りは光にあふれ、生き生きと輝いている。
「もしかして、これって……このお城の、『GREENEST』の……過去の残像?」
 続いて、華麗な衣装に身を包んだ人々の姿が一行の目に映る。
 彼らはにこやかな表情で次々とクリス達に会釈をした。
 それらは走馬灯のようにゆっくり、そしてはっきりと見えた。
「?」
 ところが次の瞬間、全ては再び廃墟と化した。
 薄暗い王城の中で、クリス達はひとつの国の栄枯盛衰を見た。

 その後も彼らは、あてどなく彷徨うマリアの後について城内を歩き続けた。
「なぁ、まだ何も思い出せないのかい?」
 城のあちこちで一行は“残像”達に出会った。しかし、マリアは相変わらず虚ろな瞳のまま、無心に城内を奥へ奥へと進んでいる。
「いいじゃないの。焦る必要なんてないわ。ゆっくりでいいのよ」
 それからしばらくして、クリス達は一際大きな部屋に出た。
「玉座の間かしら?」
 クリスの言葉と共に再び『GREENEST』が輝き、同時に蘇る在りし日の幻影。
 そこでは、側近と思しき男達が、玉座の前に集って王の昇殿を待っていた。
 更に室内を見回すと、何やら地図を広げて話し合う者や、せわしなく出入りする軍服姿の者達の姿もある。
「何だか、キナ臭くなってきたわね」
 忍び寄る戦争の影。
 そんな中、マリアがふと歩みを止め、気付いたクリスが彼女の視線を追いかける。
「あら、あの子……」
 部屋の隅に立つ一人の少女。どうやら、はじめに桟橋で出会ったあの亡霊と同一人物のようだ。
「……」
 マリアの見詰める先で、少女は長い髪を揺らしながら奥の扉へ消え、そこで映像は途切れた。
 ――と。
「ク、クリス! あそこ!」
 突如、何かに気付いたグレーシャがクリスの袖を掴み、背後の窓辺を指差した。
 しかし、そこに特に変わった様子はない。
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹