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「お話(仮)」

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 少女が、そう呼ぶにはあまりに大人びた眼差しで、ぽつりと言った。
「ひどい有り様だね」
 マリアと共に追いついたグレーシャが、その惨状に思わず目を伏せる。
「変わらないのは、クリスと……このお花だけ」
 よく見ると、彼女の足元では、名残り雪に混ざって所々に白いスズランの花が咲いていた。
「……」
 マリアが歩き出し、彼女は何かに駆られるかの如く、花の群生する場所へと踏み込んでいった。
「へぇ、綺麗な花じゃないか」
 続いてグレーシャが、墓標の間を縫ってマリアの後を追いかける。
 ――と、その時。
「ギャフン!」
 つぶれた声と共に、足元から飛び出した謎の気配。
 グレーシャが反応するより早く、“それ”は猛スピードで彼女の前頭部に激突し、そのまま空中で一回転した後、颯爽と草の上に着地を決めた。
「なっ、何だ、今の……?」
「ルージュ! イタイYO! アイツニ フマレタYO!」
「クロ!」
 少女が声を上げ、地面にうずくまったまま、咄嗟に目線を上げたグレーシャは見た。
 かすんだ視界の先にぼんやりと見える、白っぽい鳥の輪郭。
「……コイツが、クロ……ぅ?」
 次第に焦点が定まるにつれ、その眉間にしわが寄る。

「じゃーん! 紹介しまぁす。私のお友達のクロちゃんでー〜す!」
 彼女が大事そうに両腕で抱えているのは、どこからどう見ても真っ白な小鳥だった。
「白い……けど、クロちゃんなのね?」
 クリスの質問に、少女――ルージュは満面の笑顔で頷いた。
「って言うか、コイツ……変な顔……」
 想像とは程遠い“クロ”を指差して思わずグレーシャが吹き出す。
 いびつな三白眼に、小さなくちばし。確かに、その見た目は何とも言い難い。
「ウルサイナ! コイツ、マジKY!」
「え?」
「ッテイウカ〜、オマエコソ、ガンブサ!!」
 クロは短い羽をばたつかせ、ルージュの帽子の上にとまった。そして、今度はそこからグレーシャを見下ろし、左右に体を震わせる。
「……悪い。あいつが今何て言ったか、よく分かんなかったんだけど」
「あら。クロは今、“空気読めないやつ。お前こそ不細工なくせに”って言ったのよ」
 ルージュが代わりに答え、途端にグレーシャの顔から表情が消える。
「なぁ、コイツ食ってもいいかい? 本気で食うよ」
「ケダモノ! ケダモノ!」
「そうだわ」
 今にも飛び掛かりそうな二人を余所に、また何かを思いついた様子でルージュが口を開く。
「今夜のステージにクリスを招待したいの。ねぇ、来てくれないかしら?」
「ルージュ、ウタウ! ウタ、ウタウ!」
 クロが帽子から翼を乗り出し、つぶれた声で主人の言葉を補足する。
「あら。アナタが歌うの? それは是非とも聴きたいわ」
「本当!? とっても嬉しいわ。そうと決まったら、急いでお店に戻って準備しなきゃ」
 そう言うや否や、彼女はくるりと体の向きを変えると、クロを連れて坂道を駆け下りる。
「今夜九時。中央通りの『レクイエム』ってお店で待ってるわ〜」
 去り際に投げキスを飛ばし、程なくルージュの小さな後ろ姿は丘の向こうに見えなくなった。
「ふふ、面白い子だったわね」
「あたいはちっとも面白くなんかないよ。すっかり話が逸れちまったじゃないか。なぁ、マリ……」
 溜息交じりに視線を戻すグレーシャ。だが、そこにマリアの姿は無い。
「マリア?」
「あそこよ」
 クリスが丘の一角を指差す。その先ではマリアが一人、花の絨毯の上で遠くを眺めていた。
「どっかに行っちまったかと思ったよ。そんなトコで何見てるんだい?」
 そう言いながら歩み寄り、マリアのすぐ脇でグレーシャは顔を上げる。
「……ん?」
 よく見ると、丘の反対側にはぽつりと一つ、周囲から隔絶された城のような建造物があった。



 ガラス玉のようなマリアの瞳いっぱいに映る古城。
「誰もいないみたいね」
 閉ざされた正面扉の前でクリスが呟く。
 近くで見ると城は一層荒廃しており、人の気配は全く感じられない。
「裏へ回りましょうか」
 すると、そんなクリスの背後からマリアが顔を覗かせ、彼女はそっと扉に手を触れた。
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹