「お話(仮)」
そしたら、さぁ大変!
かごから出したとたん、小鳥はたちまち大きな青鬼の姿に変わり、お城のバルコニーから飛び出すと、木の実のかわりに、赤い服を着た町の人たちを次々に食べはじめたのです。
お姫様は泣きながら、何度も何度もあやまりました。
すると、そこへあの時の旅芸人が現れて、お姫様に本当のことをつたえました。
「これが小鳥の本当の姿。芸のためにつかまえた鬼を、こっそり魔法のおりに閉じ込めていたのです。今回のことは私のあやまち。自分のしたことの責任は、自分で取ります」
鬼をつかまえに行こうとする旅芸人。それを見て、お姫様は泣くのをやめました。
自分のしたことの責任は、自分で取る。
お姫様はタンスにあった赤いドレスを着て、鬼をおびきだそうと町へ向かったのでした――
「もういいだろう?」
シヴァが話を遮り、外の雪景色を横目に彼女は呟く。
「これ以上は時間の無駄だ。欲しい情報は鳥ではなく、氷の宮殿だろう?」
「あら、そうかしら? あながち無関係でもなさそうだけど」
シヴァのすぐ横でクリスが口を開く。
「ただ闇雲に探すんじゃなくて、こっちから“おびき寄せる”ってのはナイスアイディアだわ」
「おびき寄せるって……その宮殿を、ですかぁ?」
コウミの問いに頷いて返した後、クリスは順々に仲間達の顔を見回す。
「でも、どうやって? まさか、同じように赤いドレスを着るわけじゃないよね?」
「そのまさかよ、オリバー」
そこから目線をひとつ横に移し――そして、クリスは微笑んで言った。
「ふふ。青鬼……もとい“蒼炎の鬼”に会いに行きましょうか、シヴァちゃん」
その言葉と共に、一同の視線が彼女の赤いコートに注がれる。
「ぼくも行くよ!」
すかさずオリバーが名乗り出る。
「あら、皆で行っちゃったら、コウミちゃんや寝ているグレーシャちゃん達を誰が守るの?」
そう言って、クリスはオリバーの頭に軽く手を乗せた。
「お願い出来るかしら? オリバー」
○
単調な雪の斜面を一体どのぐらい登ったのだろうか。
無機質な視野と叩きつける吹雪が、容赦なくクリス達二人の五感を麻痺させる。