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「お話(仮)」

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「……またお前の差し金か、クロウ」
 振り返ったシヴァの瞳の中で、クロウはただ黙って立っていた。
「スキュラ、と言ったな。あのまじない師もケモノの一員か?」
「いいえ。あの者は、『GREENEST』という共通の目的の下に結びついた、ただの協力者ですよ」
「また『GREENEST』、か。何だというのだ、あの石は?」
 すると、まるでその問いを待っていたかの如く、クロウの口元に笑みがのぞく。
「実は、それに関して幾つか面白いことが分かりました」
「面白いこと?」
 珍しく話に興味を示したシヴァとの距離を縮めながら、クロウが囁く。
「少々気になってエンデュミオンという場所について調べてみた所、どうやら『GREENEST』という石は、北方地域に伝わる二つの秘宝のうちの一方だとの事」
「二つの秘宝、だと? ならば、もう片方は……?」
 シヴァが聞き返す。するとクロウは彼女の唇に人差し指を添え、弄ぶような口調で話を続けた。
「あくまで伝説上の話ですが、それらは遥か昔、罪を犯して北へ逃れてきた一人の女が持ち込んだとされる石。そのうち一つ目はご存知の『GREENEST』。そして、二つ目は……」
 シヴァの目の前で二本目の指を立てるクロウ。同時に、出港を告げる汽笛が低く鳴り響く。
「……『SILVER・EYE』?」
 聞き取れなかった部分の唇の動きを真似て、そうシヴァが繰り返した。
「いかにも。『GREENEST』と『SILVER・EYE』。二つの秘宝は古来よりエンデュミオン王家の中で受け継がれ、北の最果てという地理にも関わらずエンデュミオンは肥沃な土と資源に恵まれ、永きに亘り繁栄を続けてきたそうです」
 迫る夜闇の中、ふいに周囲の風向きが変わる。
「ところが二十年前、隣国カリブディスの軍師が当時の王を唆し、エンデュミオンに進軍を開始した。軍事力で勝るカリブディスは程なくして片方の秘宝『SILVER・EYE』を奪い、両国はその後、長い戦争時代へ突入する事となった」
 そこでクロウは一旦言葉を止め、二人の間に冷たい空気が流れる。
「ずいぶんと身勝手な軍師だな」
「そして、面白いのはここから先。全ての発端となった欲深きカリブディスの軍師……」
 おもむろに視線を遠くへやるクロウ。蝙蝠の飛び交う空の下、その長い黒髪が夜風に躍る。
「その軍師の名は……」

「スキュラ」
 静まり返った館の内部で、ぽつりとクリスが呟いた。
「まるでアタシを知ってるような口ぶりだったけれど。こんな所に閉じ込めて何をする気なの?」
 何度か試してみたが、外へ通じる扉は不思議な力で閉ざされており、体当たり程度ではびくともしない。そこで、クリスはひとまず外に出ることを諦め、元いた場所まで戻った。
 蝋燭が灯ったままの小部屋に入ってすぐ、クリスは周囲を探った。来た時に見た外観は二階建てのようだったが、辺りには階段はおろか、梯子やそれらしき物は一切見当らない。
「気長に待つしかなさそうね」
 ふと、そんな彼の視線が、部屋の隅に置かれた書棚の前で止まる。先程は気にも留めなかったが、よく見ると、そこには様々な言葉で書かれた本や雑記帳がびっしりと並んでいる。
「ふふ、これで例の『蒼炎の書』が見つかったり……なんて。まさかね」
 そのまま、クリスは何気なく手に取った一冊のノートの革表紙をめくった。
「日記かしら?」
 びっしりと書き込まれた手書きの字。いつしか、彼はカードの置かれた机の前の椅子に腰を下ろし、その内容に見入っていた。
「共和歴247年……ってコトは、二十年も昔の日付ね」

 共和歴247年 4月3日
 本日、カリブディス王より国境征伐の勅書を賜る。
 何と容易き事か。愚かな道化め。
 『GREENEST』の『SILVER・EYE』。間もなく、大いなる力が我が物となろう。 

         4月7日
 降り続いた雪が雨に変わる。
 記念すべき夜だ。遂に、我は不老の肉体を手に入れた。
 残す不死はまだか。

         4月10日
 我が元に密偵を差し向けるとは、王の奴め、勘付きおったな。
 ならば、もはやこの不毛な国に留まるのは愚策。不死を得るのは後の機会としよう。

         4月19日
 先刻、一人の若者と出会った。
 チェバの町まで逃げ切れば、後の事は彼奴が上手く片付けるであろう。
 この不老の石『SILVER・EYE』だけは、誰にも渡しはせぬ。

 記述はそこで途切れていた。
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹