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「お話(仮)」

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 クリスの問いに、ルビアはそっと人差し指を口元に当てて笑う。
「私の話はここまで。ここから先は別料金よ」
「……」
 黙り込み、ポケットから財布を取り出すクリス。しかし、中身を確かめるまでもなく、その軽さに彼はひとつ溜息をついた。
「残念ね。でも、今回はサービスで少しだけ教えてあげるわ。ゴルゴンゾーラは世界屈指の宝石商。彼の手持ちの中に、ケモノの気を引く代物があったっておかしくないんじゃない?」
「アリガト。あとは自力で見つけるわ。行きましょ、シヴァちゃん」
「なぜ私まで。お前の都合に巻き込むな」
 そのまま二人は並んで店の外へと歩き出す。
「まずはどこを当たろうかしらね? 例の、ゴルゴンゾーラに忠誠を誓う……『牙』だったかしら? そのメンバーから話が聞ければいいんだけれど……」
 シヴァに対してか、それとも独り言か。呟きながら、クリスはシヴァと共に店の外へ姿を消した。
 客が去り、再び店内には静けさが戻る。
「“忠誠”と言うより、“首輪をはめられている”って方がいいかもしれないね」
 吐き捨てるように彼女はそう囁き、腕に抱いた猫の喉を撫でた。
「さて。あんた……一体何を見てきたんだい?」
 ゆっくりと顔を上げる猫。同時に、首輪についた玉飾りが妖しく光る。



「……」
 突如全身に寒気を感じ、シヴァはコートの下から両腕を抱え込んだ。
「大丈夫? 何だか急に寒くなってきたわよねぇ」
 広場に程近い遊歩道を進みながら、頭上を眺めてクリスが呟く。いつしか空には灰色の雲が立ち込め、午後の太陽にまだら模様の影を作っていた。
 ――と。
「!」
 突然、脇道から人影が飛び出し、クリスにぶつかった弾みで勢いよく地面に転がった。
「ゴ、ゴメンなさい。ちょっとよそ見してて……」
 その場に屈み込んで手を差し出すクリス。だが、すぐに彼は気付いた。
「って、アナタ、オリバーじゃないの!」 
「ク、クリスお兄ちゃん……?」
 思わぬ場所での再会に、ほんの一瞬、二人の中の時間が止まる。
 ――が。
「やば! クリスお兄ちゃん、ちょっとかくまって!」
 迫り来る気配を察知して跳ね起き、オリバーはクリスの背後に身を隠す。
「ちょっ……どういうことなの?」
 しかし、その問いに少年が答えるより早く、またもや見覚えのある顔が同じ路地から現れる。
「あら。今度はコウミちゃん。そんなに慌ててどうしたの?」
 すると、コウミは息を切らせながら辺りを見回し、早口で言った。
「オリバー坊ちゃんを……知りませんか? もう、さっきから、別荘へ行く……お車が待っているんですけど、嫌がってしまって、そのぉ……奥様もお待ちなのに……」
 時間を気にしているのだろうか。落ち着かない様子でコウミは後方を振り返る。
 見ると、路地の反対側の大通りには、一台の車が止まっている。
 黒塗りの車体のボンネットで光る、ゴルゴンゾーラ社のエンブレム。
「……そういうコト?」
 クリスは事態を大筋で理解した。そして――。
「オリバー、車が待ってるわよ」
「ぅわあっ!」
 彼が身を翻すのと同時に、その背にしがみついていたオリバーの体がコウミの前に躍り出る。
「ひどいよ!ぼく、別荘になんか絶対行かないからね! おじい様たちと一緒に家に残って、ぼくもあかいケモノと戦うんだ!!」
 決意を秘めた目で大人達を見詰め、オリバーは息まく。
「そうだ、クリスお兄ちゃん。ぼくに武術を教えてくれる約束忘れてないよね? ねぇ、お兄ちゃんみたいに敵をやっつけるにはどうしたらいいの?」
「……やっつけるだけが戦うコトじゃないのよ、オリバー」
「?」
 オリバーの肩に両手を乗せて、クリスは言った。
「力ずくで戦わなきゃいけない時もあるけれど、それがいつも正しいと思ったらいけないわ。ホラ、“北風と太陽”のお話があるじゃない」
「でも」
「オリバー。お母さんやコウミちゃんを守ってあげなきゃダメよ」
 温かい眼差しをオリバーに向け、微笑むクリス。
「わ、わかったよ……。行こう、コウミ姉ちゃん」
「坊ちゃぁぁーーん」
 その大きな瞳を潤ませながら、コウミはオリバーを抱きしめると、そのまま二人は並んで裏路地を駆けていった。
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹