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「お話(仮)」

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「これで終わりね」
 立ち上がるクリスの足元で、ノアは赤く腫れた頬に手を当てた。
「驚いた。この僕をぶつなんて、君が初めてだよ。父様も母様も、物心ついた頃にはもう死んじゃってたからね。……この、王様の証だけを遺して」
 床に倒れたまま、ノアはそっと両耳からピアスを外すと、それをクリスに投げてよこす。
「僕の負け」
 クリスは手の中を見詰めた。
 全ての根源ともなった、小さな小さな紅い石。
「王の証ねぇ、これが」
 ひとつ溜息のようなものを漏らした後、彼は再びノアを見た。
「悪いけど、要らないわ。アタシ、そんなの性に合わない……」
「ハ? 誰が君なんかにあげるって言ったの?」
 と、その時、部屋を支える柱が砕け、天井が音を立てて崩れ始めた。
「ホラ、早く出ないと死んじゃうよ」
「そうね……行きましょ。アナタも一緒に」
 クリスはシヴァを抱えながら、もう片方の手をノアに差し出した。
「早く」
「何それ。僕が『紅い獣』のボスだってコト、忘れてない?」
「そんなの今は関係ないでしょ。それに、死ぬなんて卑怯だわ。生きて、ちゃんと償って……」
 そう言って更に伸ばした手を、クリスは突然止めた。
「残念でした」
 仰向けに寝転んだまま、それを見てノアが鼻で笑う。
 クリスを躊躇させたもの――。それは、彼の手から今も尚ほとばしる、蒼炎の力。
「いつかシヴァがそれに引っ掛かって飛ばされたっけね。あハハ、僕はやめとく」
「……ぃゎょ」
 立ち上がり、ノアに背を向けてクリスは繰り返した。
「死んだら絶対、許さないわよ」
 そのままクリスはシヴァを連れ、廊下に続く扉の方向へ駆け出した。
 直後、崩れた天井の細かい瓦礫が、二人の姿をかき消すように舞った。
「……」
 ひどく静かな王者の間。崩落の音など、ノアの耳には届かなかった。
「そう、僕は死なない。だって……まだ……」
 とめどなく、その体から紅い光が溢れ出す。
 ノアは静かに目を閉じた。



 どんなに長かったろう。
 どんなに短かったろう。

「シヴァちゃん……」
 廊下を走るクリスの後方で、立て続けに瓦礫の崩れ落ちる音が鳴っていた。
 そして、腕の中には、冷たく透き通るような肌のシヴァがいた。
「ゴメンなさい。アタシ、最後の最後まで、結局アナタに何もしてあげられなかったわ」

 ……そんなことないよ。

「ノア?」
 ふと耳元で声が聞こえた気がして、クリスは振り返った。
 しかし、そこには誰の姿もない。



「悔しいなあ」

 君はシヴァを変えた。
 僕の知らないシヴァにね。
 僕は認めない。それは今でも変わらない。

「君のせいだよ」

 君さえいなければ、君さえ戻ってこなければ、
 百の命が揃ってたんだ。
 本当は、あと一つ。それで今度こそ、百になる。

「死ぬんじゃないよ。死ぬのとは違う。これは、僕の…………」

 ……最後の誕生日プレゼント。

作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹