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「お話(仮)」

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「そうはさせないわ」
 クリスは再び武器を構え、目を閉じて、五感を手元に集中させた。
「ヒヒ、そんなひび割れたガラクタで何が出来る?」
「甘く見ないで。この子は強いのよ」
 『ローズ・マリー』を握る手に力がこもる。
 それに同調するかの如く、蒼炎のエネルギーが細かい電流となって足元を這った。
 直後、風圧と共に上空で膨れ上がった殺気が、猛スピードでクリスに迫る。
「!!」
 クリスは目を見開いた。

 ――そして、百の命を喰らった時……。



 部屋に入った途端、目がくらむような茜色の光がシヴァの視界いっぱいに飛び込んだ。
 開け放たれた奥の窓。並んだ剥製の数々。そして、壁際には天蓋の垂れたあのベッドがあった。
「……」
 やるなら今しかない。かたく口を結び、シヴァは腰のナイフに手をかけた。
 ――その時。
「おかえり、シヴァ」
「!」
 突然、背後の暗闇から浮かび上がった同じ顔。
 それにシヴァが反応するより数倍早く、伸びた細い指が彼女の動きを封じる。
「ノア!」
「何それ、呼び捨てなの? まぁイイや。今夜のパーティーにもちゃんと間に合ったし」
 そう言いながら、ノアはもう片方の手でシヴァの頬に触れ、そっと耳元で囁いた。
「何その顔。本っ当にまだ思い出してないワケ? やんなっちゃうなぁ」
「?」
 そのままシヴァの左耳からピアスを外すと、ノアは彼女に背を向け、悠然とした足取りで部屋の奥へと歩き出す。
「今日は、この二つのカケラが別々のカラダに宿った日。つまり……」
 窓辺で振り返るノア。沈みかけた夕日を浴びたその横顔は恐ろしく眩しかった。
「ハッピーバースデー」



 葦野原を埋め尽くす黒き軍隊。
 姫に扮したマリアを見つけるなり、隊列から進み出た男が兜を脱いで言った。
「エンデュミオンの、王女様ですな」
 忘れもしない顔。姫や同胞達の命を船もろとも奪った、あの時の将校だった。
「おっと、これは失敬。今はカリブディスの属州民、でしたな」
「っ」
 マリアは悔しさに唇を噛んだ。
「はて? そのような亡国の姫君が、今日は一体どういった御用件で?」
「……あなた方に、お願いがあります」
 今にもあふれそうな怒りと涙を堪えながら、その後、彼女は胸元につけていたブローチを外すと、黙ってそれを将校に差し出した。
「これは、『GREENEST』?」
「欲しいのであれば差し上げます。その代わり……」
 遥か後方に、光り輝く丘が見えた。
「どうか、もうこれ以上、エンデュミオンの土地を荒らさないで下さい」
「ほほぅ」
 将校が動いた。彼はマントから片腕を出し、受け取ったブローチを暗くなり始めた空に翳した。
「……」
 マリアは黙って相手の反応を窺った。
 本当は『GREENEST』などではない。通りすがりに露店で見つけた、よく似た偽物だ。
 見る者が見ればすぐに分かる小細工だが、それが今、彼女に出来る精一杯の抵抗だった。
 長い沈黙の末、ゆっくりと将校が口を開く。
「良いでしょう。承知致しました」
「では、エンデュミオンを」
「エンデュミオン? はて? そのような国は存じ上げませんな」
 直後、将校は今までマントの中にあった左手を高々と掲げてほくそ笑む。
 逆光に輝く小型機器のシルエット。よく見ると、中心部で何やらランプが点滅している。
「起爆装置ですよ」
「!」
「爆弾は市街地全体にばら撒いてある。この周辺以外、あと一分足らずで木端微塵に吹き飛ぶ」
「図ったな!」
「力ずくで止めようとしても手遅れ。これはただスイッチを押すだけの物ですからな」
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹