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「お話(仮)」

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「ふーん」
「歴史は勝者達の物語。伝説だって、どうせ彼らが都合良く後付けしたものでしょうけれど。興味があるなら行ってみたら? 夕方から式典があるらしいわよ」
 細い路地の隙間から、大通りを行き交う人々の様子が見える。
 彼らは皆、花や蝋燭を両手いっぱいに抱え、丘の方向へ流れているようだった。
「いずれにせよ、日暮れまでに片付けた方が良さそうだな」
 台座の反対側でフウマが呟き、抜けるような空を仰いで眉をひそめる。
「嫌な風だ」
 刹那、広場をひとすじの風が吹き抜け、石像に憩っていた鳥達が一斉に大空へ飛び立った。

「あっ」
 春風を受け、ほどけた花束が宙に舞う。
 大通りを歩いていたマリアは急いでその場に両手をつき、散らばった花々を拾い集めた。
「まだ、あんな所にも」
 少し離れた路地の曲がり角付近に、白っぽい何かが見えた。
 それを追いかけて裏道へ入り、低い姿勢で建物の軒下に手を伸ばすマリア。
「……? これは、何かしら?」
 指先に硬い物が触れた。奥から取り出してみると、それは見慣れぬ円盤型の機械だった。
 ――と。
(『GREENEST』は見つからないのか?)
 奥から聞こえてきた会話。その単語に反応してか、彼女は反射的に身を隠した。

「残念ながら。持ち主の見当はついているんだけれど、まだ接触出来てないわ」
「急がねばな。奴等はもうこの島に上陸している」
 フウマの目が光る。
「戦は終わったと聞いていたが、カリブディスは何故こんな事を?」
「色々あるのよ」
 背中合わせの格好でルビアが答え、そのまま彼女は手持ちの煙草に火をつけた。
「秘宝やら、砂金やら、大人の事情が色々ね。恐らく、彼らは祭りの騒ぎに乗じて『GREENEST』を奪い取り、資源を掘るのに邪魔な市街地を……」
「ルビアさん」
 ふいにヨウがルビアの言葉を遮った。
「喋りすぎ」
 台座から立ち上がり、路地の先へ姿を消すヨウ。
 程なく彼は平然とした顔で戻ってきたが、その手には何かが握られている。
 しおれかけたスズランの花束。それを見るなり、ルビアは白い溜息を吐いた。
「……油断したわ」
「今ならばまだ間に合う。俺が行こう」
「追わなくていいわ」
 大通りへ出ようとしたフウマの背をルビアが引き止める。
「多少のことは切り捨てましょう。今からは『牙』として、私達のすべき仕事を進めるわよ」



 二つめの螺旋階段を上がり、吹き抜けになっているホールを一気に突っ切った。
「ここから先は、組織内でもごく一部の者しか立入ることの出来ない場所だ」
 目の前に広がる、紅絨毯の渡り廊下。
 霧の中で足を止め、シヴァは背後のクリスに言った。
「突き当たりにノアの寝室がある。一気に行くぞ」
「そうね」
 すぐ後ろで、短く一言クリスの声がそう答えた。
「だが裏を返せば、既に私達はノアの懐の内。いつどんな罠があっても不思議ではない」
「……そうね」
「クリス?」
 どこか違和感を覚えてシヴァは振り返った。
 ――が、そこにクリスの姿はなく、無機質な風の残響だけが何度も辺りにこだましていた。

「シヴァちゃん?」
 見失った。霧の立ち込めるホールで目を凝らし、クリスはシヴァを探した。
「?」
 微かに、もやの先に細い廊下が見えた。
「シヴァちゃん、待って!」
 廊下を歩いて行こうとするシヴァの後ろ姿。すぐさまクリスは駆け出した。
 しかし直後、斜め後方から殺気を感じ、彼は気配のした方へ向き直った。
「アナタは……」
「ヒヒヒ」
 ゆらりと姿を現したセトが、右手を伸ばして嘲笑う。
「行きたかったら、どうぞ、行って構わないョ。ただし……」
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹