小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

「お話(仮)」

INDEX|102ページ/115ページ|

次のページ前のページ
 

 最終話 『神様のプレゼント』

「あはははハハ! やるじゃん。そうこなきゃね!」
 投影球を持つノアの手が笑いに震える。
「ま、こんなトコで苦戦してるようじゃ全然話にならないけど」
 球面に映ったノアの顔。どこか憂いを帯びた眼差しが、戦うシヴァの目元と重なり合う。
「でも、その様子じゃホントに覚えてないみたいだね。シヴァ」
 ノアがふっと息を吐く。
 と、同時に玉の中で追い風が吹き、シヴァの投げたナイフが相次いで敵に刺さった。
「忘れちゃったのかなぁ。今日が何のパーティーか、ちゃんと思い出すまでは、生きててくれなきゃ僕が許さないよ」



「あら、案外大したことないのね。ちょっと拍子抜けしちゃったわ」
 武器をしまいながら、クリスは仕留めた敵の山を振り返る。
 そんな彼を余所に、シヴァは無言で室内奥の上り階段を見詰めていた。
「どうかしたの?」
 気付いたクリスが尋ねる。すると、シヴァは俯き加減に部屋を横切り、階段の下で口を開く。
「今ので分かった事が二つある。ひとつは、組織の下の者達は、私の……つまりノアの顔を知らない。そして、もうひとつは」
 黒曜石の手すりに映る自身の顔。そこから目線を上げ、険しい表情で彼女は続けた。
「ノアは上で私達を見ている」
 クリスには分からなかったが、恐らく血の繋がった兄妹だからこそ感じる何かがあるのだろう。
「そう。なら尚更、早く行ってあげなきゃね」
 怯えていても仕方がない。二人は頷き合い、足早に先を急いだ。

 階段を上がると、そこは薄靄の漂うホールになっていた。
「まだ上があるみたいね」
 壁にかかった二枚の肖像画の向こう側、おぼろげに見える螺旋階段を指差してクリスが呟く。
「それにしても……この人、アタシ知ってるわ」
 手前の男の絵が目にとまった。
 力強い眼差し。今にもあの豪快な笑い声が聞こえてきそうだ。
「カムイ。懐かしいわね」
 その言葉にシヴァの足取りが止まる。
「何故、お前がその名を知っている?」
 彼女は振り向かずに尋ねた。
「昔の知り合いなのよ」
 クリスは――シヴァには見えなかったが――微笑んでそう答えた。

(よーォ、兄ちゃん。こんな所で会うなんて、奇遇じゃねェか)

 額縁の中から、相変わらずの調子でカムイに語りかけられた。そんな気がした。
「ホント、奇遇ね。いつかの飲み代、取り立てに来たわよ」
 懐かしい記憶が脳裏をよぎる。あれから今に至るまでの間に一体何があったのか、空白の時間を埋め合わせるように、クリスはもう一枚の肖像画へ視線をずらす。
「あら、カムイ。その様子じゃ、プロポーズは成功したみたいね」
 紅い耳飾りをつけた、見たことのある褐色肌の女。
 同時に、クリスの中でひとつの運命の糸が繋がり合った。
「……シヴァちゃん? もしかして、この二人って」
 その問いに、シヴァは二枚の絵の間で小さく頷き、そして言った。
「私の両親だそうだ」
 不自然な言い回しだった。
 首を傾げるクリスに気付いてか、その後、彼女は言葉を補足する。
「父は、私が生まれる前に戦場で死んだ。そして母も、まるで後を追うようにして世を去ったと、そうクロウから聞いた」
 どこか寂しげにそう語るシヴァの横顔は、キャンバスに描かれた女のそれとよく似ていた。



 天に向かって右手を掲げる、ブロンズ製の女神像。
 ここは、エンデュミオンの目抜き通りに程近い小広場。
「で、結局今日は何のお祭りなの?」
 台座の日陰部分に腰掛けたまま、おもむろにヨウが尋ねた。
「それよ」
 横目でその足元を示してルビアが返す。
 よく見ると、台座の側面には、細かい文字で何やら詩のようなものが彫られている。
「昔々、伝説の女神が国を作った記念日だそうよ」
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹