「お話(仮)」
第10話
「シヴァ……ちゃん……?」
雪よりも白く、そして冷たい頬。
クリスは目を伏せた。
「ふーん。さすがのキミでも泣くんだ。無理ないか。大好きなシヴァが死んじゃったんだもんね」
まるで能面のような顔で、クリスとシヴァを交互に見下ろすノア。
その左耳で、つい先刻までシヴァがしていた真珠のピアスが揺れる。
(クリス、私はお前に出会えたことが嬉しい)
彼女の遺した言葉がクリスの胸に突き刺さる。
「……有難う。ゴメンなさい。あの時、アナタを守るって約束したのにね」
――少しだけ、未来を教えてあげよう。
○
「安心して。何があっても、アタシがシヴァちゃんを守るわ」
「?」
突然の言葉にシヴァは一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに顔を反らして呟く。
「お前は“ケモノ”を……奴を甘く見過ぎている。引き返すなら今しかない」
あの騒動から一夜。
謎の台詞を吐いて去ったセトの挑発に乗るかの如く、クリス達は“紅い獣”の居城を目指した。
そして、太陽が空の頂上で輝く頃、二人の眼前に現れた巨大な煉瓦色の建造物。
「さすがに強行突破はマズイかしらね?」
入口扉に彫られた動物のレリーフをなぞってクリスが肩をすくめる。
手の平を通してざわめきを感じる。この奥に敵が待ち構えているのは間違いなさそうだ。
「ノアに小手先のごまかしは通用しない。もう一度言う。引き返すなら今しかないぞ」
「アタシも目的があってここへ来てるの。早く、グレーシャちゃんの呪いも解いてあげなきゃね」
グレーシャは町に残った。
その理由について彼女は何も語らなかったが、クリスには察しがついた。
「今更引き返せないわ。シヴァちゃん、覚悟はいいかしら?」
愛鎌『ローズ・マリー』を構え、クリスはシヴァに問うた。
「勿論だ」
そして二人は呼吸を揃え、扉を一息に蹴破った。
“強行突破!”