「山」 にまつわる小品集 その参
「昨今の集中豪雨や超大型台風の発生には、地球温暖化が影響していることはご存じのとおりです。特に周りを海に囲まれた島国日本においてそれらの現象は顕著なのですが、日本近海の水温が異常に高まっていることの影響が大きい」
お茶の水博士は、信頼している人々を前にして話し始めた。大きく切り取られた窓からは、雪を頂いた秀峰富士山が望まれる。静かに、そして堂々と構えた姿。人間の愚かな行為を、ただ黙って睥睨している。
「そして、異常水温に関係しているのが、原発なのです」
「なるほど、十分考えられることだ。なぜ今まで気づかなかったのだろう。アメリカでもハリケーンの脅威は増しているんだ」
「それは、科学者間の連携がなかったからです。意図的かどうかは分かりませんが、政府や関係企業が、瑣末な情報とみて開示していないからでしょう。科学者も個々の問題として捉えていても、関連付けをしてこなかった」
「それでどういうふうに考えられるのかね」
「原発一基につき、300万kWの熱を作り出しています。そのうち電気に変わるのが100万kW。残りの熱は冷却水として取り入れている海水に捨てているわけです。海水の温度は7度上昇します。その温まった海水を毎秒70t、海に流しているのです」
「そうかぁ、7度の温度差は大きすぎる! その温められた海水から発する水蒸気が雲となって、あるいは台風に巻き込まれて雨を降らせているわけだ」
「『海水温め器』でもある原発の存在は、どのような処置のしようもなく増え続ける『死の灰』だけの問題ではないのです」
「う〜む、原発・・・我々だけの力で何ができるのだろうか」
「自然エネルギーの開発にも力を入れ始めていますが、それらにも問題は多い。太陽光発電。これも大きく普及すれば、気候変動は避けられません。サハラ砂漠に大々的に設置されれば、太陽熱を受けて温まった空気の上昇がなくなり、気流が変化して、北欧に雨や雪を降らせなくなるでしょう。干ばつが始まるのです。しかるに、太陽光発電パネルを地球の衛星軌道に乗せてしまおうという、バカげた提案をしている輩までいるのです」
「そうなると・・その分地球が冷え込んで、どのような影響が生じるのか・・・」
「太陽光発電などは、地産地消には適しています。しかしその装置を生産し運搬し、メンテナンスの為の動力を考えると、総エネルギーの高々10%程度の効率にしかなりません。風力発電はさらに効率が悪い。しかも山に道路を作り風車を作り、環境や生物の生息に与える影響は計りしれません」
「自分の研究ばかりに目を向けていたために、そういったことには関心がいかなかった。どうすれば・・・」
「エネルギー消費を減らす生活を推進すること。それの為の技術研究をお願いしたい」
「現在の経済活動に水を差すことになる」
「命と経済、どちらが大事なのか! 今の世界の指導者と企業は、経済にしか目が向いていないのです。我々の活動が知られれば・・・おそらく、つぶされるでしょう!」
地球誕生時から、大きな気候変動と環境変化は幾度となくあった。
地球にとって生物は偶然生じた存在。
それに関係なく地球の寿命がある限り、太陽の周りを回り続けるだけのもの・・富士の山はやはり静謐のまま、夕暮れの太陽がその冠雪を赤く美しく染めていた。
2011.9.7
補足:パソコンによる1回の検索によりデータが得られるまでに消費されるエネルギーで、コーヒー1杯分作れるといわれています。
かくいう私は、毎日およそ十杯のコーヒーを飲んでいることになるのですが・・・
作品名:「山」 にまつわる小品集 その参 作家名:健忘真実