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てっしゅう
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「愛されたい」 第六章 高まる想い

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横井からのメールだった。

メールを見た智子は困惑した。返信しようかどうか迷った。簡単に「まだ半田にいます」とだけ書いて返信した。横井からは、「帰りはどこから乗るの?知多半田?JR半田?」と直ぐに返ってきた。「知多半田」と返信した。

「子供からのメールなの?帰りを心配しているんじゃないの?」敏子はそう聞いてきた。
「違うの・・・ごめんメールしちゃって」
「いいけど、時間がないのなら駅まで送るよ。これから会えるってなったから、またゆっくり話そう」
「いいのよ。大丈夫・・・せっかく会えたのだから、もっと居たい」

智子はそう言って横井のメールをそれからは開かなかった。すっかり話し込んで夕方5時を回ってしまった。帰るからと言って敏子に駅まで送ってもらった。
「智子、仕事始まったら時間見て会おうね」
「敏子、連絡するから。仕事早く見つけてよ、じゃあ」手を振って別れた。切符売り場で金山総合駅まで買って、改札を入ろうとしたとき、目の前に横井の姿が見えた。

「横井さん!どうしたのですか?」
「キミを待っていたんだ。断られたけど、どうしても顔が見たかったから」
「メールを下さったときからずっとここで待っていたの?」
「うん、仕事営業だから時間は自由になるんだ。気にしないでくれ」
「私が来なかったら、どうされるおつもりだったの?」
「最終電車が出て行くまでここに居たよ。そうなったら諦められるだろう。そうしたかったんだ」

横井の言葉に智子は震えた・・・いや、痺れたというほうが正しいだろう。ドラマのような台詞に自分を見失いそうになった。このまま改札を通ることが許されないような思いでしばらく言葉が出なかった。

「今度は会って下さい。お願いします」横井はそう頭を下げた。
「そんな事仰らないで下さい。逢いたいのは私のほうなんですから・・・」
「本当ですか!智子さん・・・」

言ってしまった。ついに自分の気持ちを抑えられなくなってしまった。

「今日は帰らないといけません。私来月15日からこの駅前で働くことになったんです。それまでの間は家にいますから、時間があると思います。連絡して下さい」
「本当なの?ここで働くの?」
「はい、あそこに見えるビルの二階です」
「そうだったのか。近くなるね。おれ達ってこうなる運命だったんだよ。諦めないでよかった。二週目の土曜日に逢おう。車で家の近くまで迎えに行くから」
「はい・・・時間は?」
「ドライブに行こう。10時に行くよ」
「交差点の角にあるファミレスで待ってます」
「忘れないでね。智子さん・・・好きだ」
「こんなところで・・・聞こえるじゃないですか」
「いいんだ。本当のことなんだから」
「私が困ります。地元ですよ」
「ごめん・・・そうだったな。気持ちが・・・止められないんだ」
「私も同じだから・・・じゃあ電車来たから乗ります」
「気をつけて帰ってね。バイバイ」
「楽しみにしています。では、失礼します」

智子は改札をくぐって入ってきた特急列車に乗った。窓際に立って横井をずっと見ていた。顔が見えなくなるまでずっと・・・

「ただいま~遅くなりました」
「お母さん、お帰りなさい。楽しかった?」
「ええ、叔母さまにも会えたし、同級生とも話が出来たからとっても楽しかったわ。それにね、伯父に紹介してもらって仕事まで見つかったのよ」
「そうなの!良かったじゃない。どこで働くの?」
「新しく出来る産業展示館の受付よ。地元の産業と文化を紹介するんだって」
「お母さん地元だから得意じゃん。楽しみだね。そうそう高志ね今度の土曜日に彼女連れて来るって言ってたわよ」
「ほんとう?それは楽しみね。どんな子かしらね」
「シャメでは可愛かったけど、どうかしらね。エッチしたらしいから聞いてやろうかしら」
「辞めなさいよ!そんなこと。あなたの事まで聞かれちゃうわよ」
「そうね・・・辞めておこう」

息子の彼女がどんな子なのか楽しみであった。そんなこともウキウキ出来るのは横井との約束があったせいかも知れない。子供達や夫に絶対気付かれてはいけないと智子は自分に言い聞かせていた。

智子はなかなか眠りにつけなかった。良かったのだろうか、やっぱりいけなかったのではないか、その想いが交互に交錯するからだ。あんなに伸一のことを嫌だと思っている自分だったはずなのに、気兼ねしている自分が居た。子供たちには感じなかった「悪い」という感情は夫に対しては感じられた。

20年間一緒に暮らしてきてすごく嫌な思いをさせられては来たけど、男と女の感情が少しは残っていたのだ。夫に気付かれたらどうなるのだろう・・・離婚するだけなら今の気持ちと変わらない。ひどい仕打ちを受けるだけならそのあと家を出るだけでいい。何かもっと計り知れないことが起こるような気がしていた。絶対に知られてはいけないと再び強く自分に言い聞かせた。

週末の土曜日になった。今日は高志が彼女を連れてくる日だ。有里も朝から気になるのか、何を着ようか迷っていた。
「お母さん、これにしようかな・・・可愛すぎる?」そういって短いスカートを穿いて見せた。
「いいんじゃないの。とっても可愛いし・・・有里はスタイルいいのね。羨ましいわ」
「お母さんだってすごく痩せたよ。私と変らないじゃない。ねえねえ前に買ったミニのワンピース、私に貸してくれない?着て見たいの」
「ちょっと待ってて、取って来るから」智子は自分の洋服タンスから文子の発表会の時に着たワンピースを有里に渡した。
「これこれ、穿いてみるね」

サイズはピッタリだった。有里が着たのを見て、「こんなに短くて可愛いデザインだったのか」と智子は改めて思った。夫が何だその服!といった気持ちが解かったような気がしていた。
「素敵よ有里。私とサイズが同じなのね」
「お母さん、今日これ着てても構わない?」
「いいわよ。高志もビックリするよきっと」
話していると二階から高志が降りてきた。

「お姉ちゃん!なにその格好?デートなの」
「可愛いでしょ?あんたのために着替えたのよ」
「うそ!何でそんなことするの?」
「だって彼女に綺麗なお姉さんねって思われたいでしょ?」
「自分で言うか?母さん!何とか言ってよ」
「いいじゃないの。気を遣ってくれているんだから。それより何時に来るの?」
「昼ごはん食べてから来るって言ってたから、1時過ぎかな」
「じゃあ、有里と少し買い物に行って来るから、お父さん起きて来たらパン焼いてあげてね」

二人を残して智子は有里と買い物に出掛けた。午後から高志の彼女が来るから出かけられないと思い早めに出かけたのだ。チラシが入っていたためかいつものスーパーは混んでいた。レジを出たところにあるケーキショップで人数分のショートケーキも買った。カフェで有里と少しだけお茶をした。

「そうだ、間瀬のおばあちゃんが成人式の着物買ってくれるって話してくれたよ。思い出した」
「そうだったの。それぐらいはしてあげられるけど、おばあちゃんがそう言うなら、して貰いなさい」
「うん、近いうちにおばあちゃんのところに連れて行ってくれる?」