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人からはそう見えるのだろう。見せているのかも知れない。叔母と話してから、伯父の家に出かけた。今日は仕事を休んでいたから、家に居て智子を快く迎えてくれた。
「やあ、来たな。元気そうじゃないか」
「はい、もうすっかりよくなりましたから。ご心配かけました」
「いいんだよ。それより仕事どうしたんだ？」
「辞めました。そろそろ探そうかと考えているけど、この歳で見つかるかしらね」
「幾つだっけ？」
「46よ」
「そんな歳になったのか！ずいぶん若く見えるな」
「伯父さま、どうなされたの？お世辞なんて心にもないこと仰って」
「お世辞なんて言ってないよ。そうか、探しているのか。半田まで通う気があるなら紹介してやれるけどなあ」
「半田ですか・・・家から30～40分なので通えないことはありませんが、何の仕事ですか？」

半田で仕事をする。あの人の近くに仕事で来る。伯父の紹介に自分が返事をすることできっと偶然ではない必然が訪れてしまう・・・そう感じた。

名鉄電車の知多半田駅の駅前再開発で建設された総合施設に地域の産業と文化を紹介する特設展示場が作られることになっていた。地元出身が条件で、受付と案内をしてくれる女性を募集していた。年齢はもちろん不問だ。身分は半田市の外郭団体だから、団体職員となる。勤務時間は交代制で、営業時間に合わせて早番と遅番に分かれる。

智子は朝はともかく帰りの時間が遅くなることを懸念した。伯父は自分のところの醤油を展示出品する関係で、半田市とコネがあった。それ以外にも古くからの付合いなどもあって、頼めば断られる事は無いと智子に話した。なるべく早番にしてもらえるように言うから、一度面接を受けてみるように勧められた。

「伯父さま、ではお話をお聞きして決めさせて頂こうかしら。私に出来る内容だったら、働かせて貰うわ」
「よし、決まった。今から電話するから、待ってろ」

そう言って市役所に電話を掛けた。しばらくして戻ってきた伯父は、メモを渡して明日式典が終わったら市役所を尋ねるように担当者の名前を教えてくれた。
智子の運命を決めるこの地での仕事が決まる瞬間が来た。無事式典は執り行われ、午前中にすべてを終了した。用意された豪華な昼食を食べ終えて、智子は市役所に出かけた。伯父に渡されたメモを頼りに商工課の窓口で待っていた。

「あれ？智子じゃない？そうだ、智子！敏子よ、久しぶりね」
話しかけられたその顔は懐かしい大学時代の同級生中野敏子だった。
「敏子！どうしたの偶然ねこんなところで会うなんて」
「うん・・・言いたくないけど、離婚届出しに来たの」
「えっ？ウソ・・・玉の輿って言ってたじゃない。何で？」
「話すと長いの。ねえ？時間あるの。終わったらお茶しない？」
「ええ、いいわよ。終わったら電話するから携帯の番号教えて」
「これよ」

「楠本さん、お待たせしました」智子は後でと敏子に言って担当者と話が始まった。

「間瀬さんのご紹介の方でしたね。こちらにお掛けください」
市役所の担当者から大体の話を聞かされた。詳しくは、10月15日から始める研修で覚えて下さいと説明された。オープンは11月1日でその日は夕方6時から歓迎式典が関係者を招いてホテルで行われるので参加するように指示を受けた。

正式な採用は研修期間が終わった11月からと決まった。

「敏子、ゴメンね。今終わったわ」
「駐車場の車の中に居るよ。乗せてあげるから来てくれない？」
「うん、どの車？」
「赤いベンツ」
「解った」

敏子は社長婦人に相応しい車に乗っていた。
「さすが玉の輿ね。これがベンツなのね」雰囲気の違う室内に智子は感心していた。
「もう、玉の輿は終わったのよ。この車も今の私には経費がかかりすぎるから、売ってプリウスにでも乗り換えるわ」
「どうしちゃったの？」
「お茶しながら話すから・・・それより今日は何？珍しいね市役所に来るなんて」
「ええ、伯父の紹介で来月から産業展示館で働くことになったの」
「どこ？それ」
「駅前の複合施設の中よ」
「そんなの出来るんだ。何故働くの？あなた専業主婦だったじゃない？」
「自分のお金で好きなことがしたくなったの」
「ご主人了解してるの？」
「ううん、納得してないけどいいの。自分で決めたことなんだから」
「あなたのところも訳がありそうね。大丈夫なの？」
「離婚するかって言う事？」
「そうなの？」
「今はしない」
「いつかしようと思っているの？」
「解らないけど、子供が学校を卒業するまではしないと思うな」
「そんなところまで行っているのね。何が原因？浮気？」
「色々と積み重なってよ。夫婦関係もなくなったしね・・・」
「そう・・・寂しいわね。女盛りなのにね」
「女盛り・・・か。そうかも知れないね、ハハハ・・・。敏子は今どうしてるの？まだ家族一緒に暮らしているの？」
「実家に帰ろうかどうしようか迷っているの。半田に知り合いが多いから離れるのも寂しいしね。このまま、子供は独立したから気楽に一人暮らししてもいいんだけど、働きたくないしね」
「贅沢な事言ってるのね、相変わらず。敏子がここに暮らすんだったら、これから会えるようになるね。そうしなさいよ、仕事見つければいいじゃん」

「あなたのように、いいところが見つかればいいけど、この歳じゃ好きな仕事になんか就けないだろうしね」
「どうして食べてゆこうと考えているの？」
「知ってる人がね、スナックやってるの。飲めないほうじゃないから、来ないかって・・・景気は悪いけど、私なら大丈夫って言ってくれてるの」
「スナック？水商売するの？何考えてるのよ敏子！しっかりなさいよ」
「男の人相手に気楽に話して楽しいかなあって、甘いかしら？」
「もう夢をなくしたの？またいい人見つければいいのに。敏子は綺麗だから相手見つかるわよ」
「夢・・・か。玉の輿なんて甘い幻想よ。現実は束縛といいようにあしらわれていただけなの。夫は確かに地元有名企業の二代目社長だったわ。いい思いが出来ると考えてたけど、お金は全く自由にさせてもらえなかったから、かえって不自由した。外に出るときも制限があったし、企業としてのいろんな付き合いに引っ張りまわされたし。妻として、母として十分なことはさせてもらえなかった。まして女としてなんか子供を生むだけっていう感じの扱いだったの」
「敏子が思っていた玉の輿とは偉く違っていたのね。ご主人に愛情はなかったの？」
「なかったわ。愛だの恋だので過ごしている時間は全く彼にはなかった。起きても寝てもすべてが仕事の時間だったからね」
「企業の社長だから仕方ない部分はあるよね。そう、じゃあずっと辛い思いをしてきたのね」
「智子より長く女なんかしてなかった・・・忘れるぐらい長い間よ」
「今からでも遅くないから、敏子のこと大切に考えてくれる人を見つけて第二の人生を楽しんだら？」
「第二の人生？・・・そうね、お金より愛ね・・・あなたもそうなんじゃないの？」
「私は・・・今のままでいいの。子供が幸せになってくれたら」
「おんなは皆そう言うのよね。本当は自分が愛されたいのに」
「敏子・・・自分を大切に考えてくれる人が一番。きっと出会えるわよ」

話の途中で智子の携帯がなった。