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てっしゅう
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「愛されたい」 第六章 高まる想い

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横井から直ぐに返信が届いた。ちょっとドキドキしながらボタンを押して開いた。

「良かったね。安心しました。こちらはのんびりしていて今の俺にはいいと思っています。昨日から智子さんのことずっと想っています。好きです・・・またメールします」

返信を見て智子は自分を想ってくれている人が居る嬉しさを感じた。いけないことであるのは十分に承知していたが、心の中は満たされるものに溢れていた。「メールだけでいい。恋をしていたい」忘れかけていた淡い気持ちが身体を包む。

鏡を見た。入院生活でげっそりしてしまった自分が写っていた。体重が5キロ減ったことで以前に比べてほっそりとした身体になったことは嬉しかったが、今のままではいけないと思った。普段通りにものが食べられるようになっても体重を維持できるようにしようと決めた。それは、自分のためだけではなく誰かのためにそうしようという気持ちも働いていた。

恋は女性を綺麗にする、と聞いたことがある。きっと今の自分のような気持ちになるからだろうと解る気がする。明日から無理をしない程度に近所を散歩して体力を回復させようと思い立った。入浴を済ませ、早めにベッドに入って睡眠を取った。

翌朝目を覚ますと、メール着信のランプが光っていた。「誰だろう・・・横井さんかしら」開くとそれは文子からの着信だった。
「退院したの?見舞いに行ったらそう言われた。連絡ください」と書いてあった。
話したいことがあったので、電話をした。
「おはようございます。メールありがとうございました」
「智子さん、良かったわね。身体大丈夫?」
「はい、なんとか。ゆっくりお話したいですね」
「私ね仕事辞めたの。いつでもいいから会いましょう」
「そうなんですか!私も辞めました。いつでもいいですよ」
「無理しなくていいのよ。出かけられるようになったら連絡して。待っているから」
「はい、早めにそうします」

文子も辞めてしまったと聞いて自分が巻き込まれた事故の大きさを改めて感じられた。そして智子は皆が今人生の転機に来ているんだと思わずにはいられなかった。

退院して一週間ほど経ったある日、智子に電話が掛かってきた。相手は伯父だった。父の兄で今は間瀬家の跡取りでもあった。
「伯父様、お久しぶりです。変わりないですか?」
「ああ、元気だよ。それより智子大変だったんだってな?仁志から聞いてビックリしたよ」
「ええ、まさか食中毒であんなに酷い目に遭うなんて思いませんでしたから」
「今はもう大丈夫なのか?」
「はい、すっかりよくなりました。珍しいですね、電話されるなんて、どうかなされたのですか?」
「そうなんだ。今年は間瀬醸造を創業した仁左衛門の300回忌なんだよ。その記念式典をやるから一族全員集まって欲しいんだよ。創業記念日は知ってるよな?」
「はい、もちろんですよ。10月1日でしょ?」
「そうだ。出来れば前の日から泊まりで来て欲しい。有里ちゃんや高志くんが学校休めるなら参加して欲しいけど無理は言えないから智子の判断でいいよ」
「学校は休ませられないわ。私一人で行くから」
「解った。忘れずに頼むよ」
「はい。必ず」

江戸時代から続く間瀬家の醤油醸造はもう創業350年を過ぎて、幾つかある地元のメーカーの中でも最年長であった。暑い夏が過ぎて、涼しい風が吹き始めた9月の半ばに智子は式典に出ることを横井にメールした。
「9月30日と10月1日に武豊の実家に行きます。間瀬醸造の記念式典に出るためです。久しぶりに親戚が集まるのでいろんな話が出来る事を楽しみにしています」

横井から返事が来た。
「そうなの。時間があったら逢いたいなあ・・・メールだけって言ったけど、近くに来るんだったら顔見るだけでも嬉しいんだけど、ダメかな?」

智子は悩んだ。逢えば必ずまた逢いたくなる。また逢えば必ずまたまた逢いたくなる。無限に繰り返す逢瀬の果てに何が待っているのか・・・今は期待より不安の方が大きい。

「すみません・・・自信がないの。メールだけにして下さい」そう返信をした。
「車で来るの?電車で来るの?」

何が聞きたいのだろうか考えながらまた返信をした。

「金山(名古屋市内の駅名)からJRで武豊駅まで行く予定です」
横井からの返事は、
「ねえ、だったら1日の帰り時間に駅まで行くから、見送りだけさせて・・・顔見たら直ぐに帰るから。それぐらいなら構わないだろう?」だった。

智子だって逢いたいに決まっていた。退院してからもう何度もメール交換をしているから気持ちは始めた頃より傾いている。自分ではメールだけの恋にすると始めたが、どんどん身近に感じる横井と本当は逢って話したかった。顔を見て今思っていることをぶつけたかった。でもそれは許されないことなんだと何度も何度も言い聞かせて気持ちを押さえてきた。見送りだけと言われても、顔を見たらそれだけでさようなら出来る自信がない。ひょっとしたら横井より自分の方が逢いたいと思っているのかも知れない。

「横井さんお気持ちは嬉しいです。今は逢えません。許して下さい」そう返事して携帯を閉じた。着信音が鳴っても無視した。
夫に実家に行くことを伝えた。
「そう」と言っただけで終わった。それで構わないのだけれど、自分の妻の実家で大きな記念式典があることをどう思っているのだろうか。何かお祝いをしないといけないか?とか、ご両親によろしく言って置いてとか、言えないのだろうか。悲しくなった。非常識を通り越しているとさえ感じた。

有里に後のことは頼んで9月30日の朝智子は家を出た。泊まるための荷物をバッグに詰めて、いつもはバスで駅まで行くのだが、今日はタクシーに乗った。平日の朝は混んでいた。金山駅は名鉄電車との総合駅になっていたのでなおさら人が多かった。JR線の武豊行き快速列車に乗って智子は久しぶりの実家を楽しみにしていた。

40分ほどで終点武豊駅に電車は着いた。降りる人はまばらで辺りの景色も昔とそれほど変わっていない事を何度来ても知らされた。

「お母さん、智子です」
「よく来たね。さあ上がって」
「はい、お邪魔します」
荷物を置いて、居間に行くと懐かしい顔が居た。

「智子ちゃん、久しぶりね。すっかり奥様ね」そう話してきたのは、岐阜県に嫁いでいた父の妹幸子であった。
「幸子おば様、本当にお久しぶりです。何年ぶりかしら、ひょっとして結婚式以来?」
「そんな事無いよ!先代が亡くなった時に来たじゃない」
「そうだったわね。忘れてました。でも15年は経ってますよね?たしか・・・」
「ええ、それぐらいになるわね。3回忌のときは体調が悪くて来れなかったから、ご無礼しちゃったからね。元気にしてたの?ご主人確か楠本さんだったわよね?お元気なの」
「私は少し前に食中毒で入院しましたが、今はすっかりよくなりました。夫は・・・元気にやっていますよ」
「そんなことがあったの・・・50に近くなると体調も変わってくるから、智ちゃんも気をつけてね。子供さんはどうしてるの?」
「長女は20歳で長男は17歳です。二人とも仲いいですよ」
「そう、幸せそうね・・・健康で家族仲がいい事が一番よ。おばさん安心したわ」
「ありがとうございます」