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見えない

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 それから一週間、彼女は来なかった。

 唐突に姿を現さなくなった彼女を、気にしないなんて、もう森主には出来なかった。
 木から下りれば彼は精霊ではなくなり、ただ妖怪になるだろう。精霊は妖怪よりも何倍も能力がある。相の子である彼もまた、精霊並みの能力を持つが、精霊でなくなると、その反動で妖力が同じ量になるよう調節される。それこそ森の主にだって勝てるほどのおぞましい量だ。妖力は邪気とも呼ばれることから、かなり邪悪な存在と成り果てる。
 そんなこと、森主自身も解っていた。解っていたけれど、彼女のいない空間に比べられるものではなかった。
「所詮、もとより俺は精霊じゃない」
 自己暗示のようにつぶやくと、森主は身をかがめた。少しためらう。それでも彼は何百年と降りたことの無い大地へと飛び降りた。今まで木の上にしかいなかったため、平らな地面というのに違和感を覚える。
 よろよろと不慣れな感覚に戸惑っていると、後ろから枯葉が落ちてきた。今は空も青く木々も青々とした季節で、紅葉とは時期が合わない。森主は振り返った拍子に尻餅をついた。そしてそれを視界にとらえる。
 木が、枯れていた。先ほどまで森主が守っていたあの樹が。
 ぼろぼろと枯れだす数百年連れ添った相方の最後を、彼は見届けた。そしてそれは、一時間も経たないうちに姿を消す。物悲しい気持ちになった彼は、振り返らずに少女がいつも来る道をたどった。
 がさがさと不安定な大地を駆け抜ける。樹を失った悲しさと、精霊の力の代わりになだれ込む妖怪の力に苦しみを覚え、無我夢中で走る彼の瞳からは、流したことも無い涙が流れた。
 邪気に押しつぶされそうになり、三十分ほど走ったところで彼は倒れこむ。そのまま何度かむせ返り、腕の力で上体を持ち上げた。目からは涙が、むせた口からは唾液が流れる。
作品名:見えない 作家名:神田 諷