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見えない

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「俺、動物は見えないから」
 森主は苦笑いをした。
 生き物の視力ってのには限界がある。それはもちろん目が悪いとかいいとか、そういう時限の話じゃなくて、それ以前の話になってくる。妖怪と精霊の相の子である森主の眼には、妖怪と精霊しか映らない。動物を見る目が、もともとついていないのだ。逆に動物たちは妖怪や精霊が見えない。彼等に見えるのは同じ動物と、幽霊の類くらいだ。
 人間は視力に関しては、他の動物に劣っている。極稀に妖怪が見える人間もいるようだが、基本的には幽霊が見えればいいほうだ。それを利点だとか欠点だとか言っているのも、森主には理解できない彼等の思考である。
 余談はさておき、森主は説明をしたところである疑問が生まれる。
―――なぜ、彼女のことは見えるのか?
 しかし自分では解決できず、だから彼女に聞かれたらどうしようかと不安が駆け抜ける。そんな彼の心情をよそに、彼女がそれを聞くことは無かった。ただ、視線をそらしただけで。

 次の日。森主の前に彼女が現れなかった。いつもの時間を過ぎてもその姿は見えず、あっという間に空は紅色(くれないいろ)から茜色へと色を変える。そのうち闇色のカーテンを引きながら、月が空を駆けて行った。
 上弦の月が見えなくなった天を、じっと森主は見つめる。
―――怒っているのだろうか?
 根拠なんて無かった。だから怒っているのだとしても、何が彼女を怒らせたのか、皆目見当すらつかない。でも、それ以外来ない理由なんて見つからなかった。人間であれば引越しということも考えるが、精霊で木から移動することが出来ない森主に、その考えはない。

作品名:見えない 作家名:神田 諷