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「せいれいさんにもきまりごとってあるの?」
 また面倒臭いことを。長年人間となんて話していなくて、久々に話せばこの面倒さ。しかも彼が話したことのある人間は巫女などの特殊な人種であり、こんな礼儀もない人間と話すのは初めてに等しかった。森主は体勢すら変えずに答える。
「知りたきゃ明日にでも来い」
 明日なんて森主には解らない。時間間隔がないのだから、それも仕方ないだろう。少女が黙り込んだので、まさかまた泣き出すのではないかと、森主は横目でうかがう。何か考えていたようで、彼女はにこりと笑った。
「うん、わかった。あしたくる!」

 月日がたった。何日で一年になるのか、人間の感性のない森主にはわからない。が、たしか季節が五十近く変わっていた気がする。
 その日も森主は木の上にいた。下のほうでのそのそと熊が起きてきて、あくびするのを見る。たしか、五回くらい前の紅葉の季節から、現れるようになった気がした。熊はのっそのっそと森の奥へ消えていく。
 入れ違いに、一人の少女が現れた。
「おはよ、精霊さん」
 綺麗な洋服を着て、緑の黒髪を風になびかせる彼女は、満面の笑みで森主に話しかけてくる。学校の話や家の話、友達の話まで飛び出してきた。森主ももう慣れたもので、構うなと彼女に背中を向ける。
 そう。この娘は、あのときの少女だった。あの日を境に、彼女は長い間、一日も欠かさずにここに来ている。どうせもう来ないだろうと高を括っていた森主だったが、会うたびに長話をされ、「これ以上話したけりゃ明日来い」というやり取りを続けている間に、なぜかこんなに長く付き合うはめになっていた。最近では、森主の「聞いていられる限界」がわかるようになったのか、「明日来い」という前に、「また明日ね」と言われるほどだ。そして本当に彼女は「明日」に来るのだ。
 長々と話し続ける少女を、森主はじっと見た。
作品名:見えない 作家名:神田 諷