見えない
「どうしていつも、お前は・・・っ!」
ゆがんだ顔が、別れたときのサトキと重なった。梓は馨越しに罪悪感を抱く。そう、彼の顔は憎しみではなく、悲しみだったのだ。
しかし、憂えた雰囲気は一気に吹き飛ぶ。代わりに彼から流れ込んできたのは、間違いなく殺気という名の邪気だった。
「なら、死んでしまえばいい」
森主の周りの枯葉が、ものすごい勢いで朽ち始めた。異常な速度で分解されていく落ち葉と、あふれ出した邪気から、馨は森主の居場所を知る。が、本気を出した彼に、見えない馨が敵うはずがなかった。
森主の蹴りが思い切り馨の腹に入る。梓は黙っていたわけではない。見えなかったのだ、本気で、早すぎて。
腹を抱えて座り込んだ馨だったが、目で落ち葉の動きを負っていた。朽ちていく道筋に、森主が駆けているのが解る。しかし追いかけるので目いっぱいだった。
不意に森主がいきなり向きを変えた。落ち葉の動きが止まる。
「馨、上だ!」
梓に言われて、彼は腹を抱えたまま地面に手をついた。そのまま足を蹴りだして、くるりと回る。すると彼のいたところの枯れ葉が、一気に朽ち葉と化した。
梓だって守られてばかりのつもりは毛頭なかった。見えるのは自分にしか見えないのだから、戦わない選択肢はないと思っていたのだ。
彼女は近くに落ちていた太い枝を拾うと、それに潜んでいた虫が落ちてきた。しかし、それに悲鳴をあげるほど可愛い性格はしていない。彼女はそれを力いっぱい森主に向かって振るった。
しかし森主はいとも簡単に棒をつかんだ。梓に冷たい視線を向けると同時に、触れた枝を先から腐らせていく。梓はすぐ枝を離すと、足元の落ち葉をつかんで森主に投げた。ぶつかった瞬間に、それはすぐに土へと変わる。
実はそれが、梓の狙いだった。