見えない
「覚えとけ、俺は森主だ」
何のために名乗ったのか、サトキは未だにわかっていなかった。あの時サトキは本当に必死で走って逃げたのだから。
それから何百年もの歳月を、彼は誰にも気付かれずに過ごした。彼女の生まれ変わりを探しに旅に出るという選択もあった。だが、彼は森主に復讐をするチャンスを捨てきることは出来なかったのだ。だから、ずぅっとこの森で生きていた。いつか、兄弟が託してくれた人と出会える日を待ちながら。
この森に、梓がたまたま通りかかるまで。
一人で。
話し終えたサトキは、深呼吸をした。梓と馨は銅像のように動かない。当然だ。今目の前で話している陽気でおちゃらけた性格だった妖怪が、こんな過去を持っていたのだから。そして、唯一自分が見える人が、それを授けてくれた兄弟を殺した相手を探しているとなれば、どれほど悲しいことだろう。
サトキの心情を知った馨は、梓のことを見た。彼女はまだ固まっている。そりゃそうだ。彼女の場合、自分の前世なんかまで出てきたのだ。
一呼吸し終えた梓は、しかし真面目な顔でサトキに言った。
「わ・・・るい、けど」
もう、それだけで解った。サトキは梓に森主を探すことを諦めて欲しかったのだ。しかし、梓の答えは「NO」。それを聞いた彼は、悲しそうな声で「そうか」といった。ふわりと風が吹いて、木の葉が舞う。
それから、梓の前にサトキが姿を現さなくなった。
サトキが探していたのは「兄弟の最後の力」、
見たかったのは「あの女性の生まれ変わり」