見えない
母親の友人
「また空振りじゃねぇの?これ」
森の中を歩くこと二十分近く。もうペンダントが動くこともなく、彼は完全に迷子だった。風でざわざわと木々が話す。しかし話しているのは、木々だけではないようだ。
「人間だ」
「人間が来た」
「こんな森になんのようだ?」
「不思議なものを持っている」
「なんなんだ?アレは・・・」
彼は声に足を止めた。にらみつけるように木の間を見る。「いる」には「いる」。それを確認するように、彼は相手を特定せずに話しかけた。
「自分は母の友人を探しているものだ。これはその友人の形見である!」
彼の言葉に、声の主らはざわめいた。それもそのはず。彼らがその形見から感じとったのは、人間からは得られないはずの邪気。俗に人間たちがいう、妖気とかいうものだ。そしてそれを感じ取れたということは、彼らが妖怪であることを示していた。
「そんなはずはない」
「そんなのに人間が関われるはずがない」
「ありえない」
彼らは少年の言葉を聞く気配はない。それでも少年は小さくガッツポーズをした。「そんなの」というのなら、きっと彼らは母の友人の情報を持っているはず。彼は興奮気味に木々に向かって声を張った。
「自分はそれについて知りたいんだ!」
返事など待たない。彼は続けた。
「母の友人であったという妖怪の情報を教えてくれ!名前だけでもいいんだ!」
肩で息をする彼に、返事がくることはなかった。それどころか、何かが「いる」気配もない。
逃げられた。彼はわかりやすく落胆した。折角の情報源かと思ったのに。
そんな彼の耳に不思議な笑い声が聞こえてきた。