見えない
プロローグ
一人の人間が歩いていた。白いワイシャツに真っ黒なズボン。確定は出来ないが、どこかの制服のようだった。風になびかないほどの短髪とあわせて、その人が男だと判断できる。彼は手に何かを持っていて、まるでダウジングのように探して歩く。
ふと、足を止めた。横を見る。そこにあったのは深い森。高圧電線が上を通っているだかなんだかで、未だに伐採されていない貴重な空間だ。こういうところには、「いる」可能性が高い。
「本当にいるんだろうな」
ダウジングとして使っていたものを、彼はにらみつけた。ペンダントにも見えて、先端のカプセルの中に、何かが入っていると踏める。もちろんそれはただの道具で、口なんてあるわけない。ゆえにこれはただの愚痴だ。もともと発言者も返事を求めてなどいない。それでも、その道具がぐるぐると回った。まるで彼の言葉に返事をするかのように。
彼はうっそうとした森を再び見つめ、ため息をついた。こんなところ、入りたくなどなかったのだが、仕方ない。まだ下校中の学生たちが歩いている中、彼は一人森の中へと入って行った。