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「珍しいじゃねぇか、こんなところにお前らみたいなのが来るなんて!」
 なにがおかしいのかずっとケタケタ笑っており、気の強いツキワは不機嫌になる。男は攻撃的なツキワの視線を見て、目を大きく開き、チェシャ猫のようににやっと笑った。
「いいねぇ、その目」
 途端彼の姿が見えなくなった。ふいに、ツキワの体が軽々と持ち上げられる。首をもたれたツキワは、爪をふるって抵抗した。が、小さな彼の腕は、男の腕にさえ届かなかった。下手に抵抗したせいで、男のつめが刺さり、ツキワの首筋に血が流れる。マモルは離れたところからツキワを心配そうに見ていた。
 サトキはマモルにそのままいるようにいうと、男に向かって駆け出す。全身に風をまとい、男とツキワの間に入り込んだ。そのまま風を広げて、二人を引き剥がす。
 ツキワはマモルがいるほうに吹っ飛んだ。男も同レベルの風を受けたのだが、すこしよろめいただけだった。多少腕に傷がついている。サトキは少しはなれたところに着地してから身を翻した。風を使ったため宙に浮いていたのである。
 腕に無数の切り傷がついた男は、その傷を見て目を見開いた。怒ったのかと思いきや、大声で笑い出す。しかしそれはとても楽しそうというより、「ひゃっひゃっ」という不気味な笑い声だった。
「ハッ!お前らみたいなのが俺様に傷つけるとは、やるじゃねぇか!」
 さんざん笑った彼から、今までしまっていた妖気があふれ出た。あまりにも邪悪で、三兄弟は押しつぶされる錯覚さえ出てくる。そして、そこで初めて彼が妖怪だと気付いた。それほどまでに、見事に擬態していたのだ。
 それでもサトキは兄弟を守るために体に再び風をまとった。そのまま彼をにらみつけて臨戦態勢になる。一方、マモルは目を盗んで、自分のほうに飛んできたツキワの傷を癒した。彼には傷を癒す力があったのだ。
 サトキから流れてくる風に、男は興味を持った。
「ほう・・・。おまえら、あいつの知りあいか」
 その言葉に、三兄弟は目を見張った。なぜこの男があの人のことを知っているのか?驚愕に固まっていたサトキは、つい男を見失った。ふいに、首筋をつかまれる。そのまま、さきほどのツキワと同じように、持ち上げられた。
 男は右手でサトキを持ったまま、視線をツキワとマモルのほうに動かした。そこでは今、マモルが一生懸命ツキワを介抱している。
「ああ、あの弱虫。あんな面倒臭ぇ力持っているのか」
 サトキの背筋を冷たい何かが走った気がした。次の瞬間。
作品名:見えない 作家名:神田 諷