小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

見えない

INDEX|15ページ/53ページ|

次のページ前のページ
 

「俺の兄弟を殺し、俺に呪いをかけた相手だ」
 二人が言葉を詰まらせた。黙りこくって凝視してくる二人を、サトキは交互に見やる。彼はおもむろに立つと、和服の襟に手をかけた。背中を向けて上裸になる。姿の見える梓は、言葉を失った。恐怖とは違うことで言葉を失った梓を見て、馨は眉間にしわを寄せる。
「どうした?なにが見える」
「・・・刺青、みたいなものがある。背中に」
 梓の目に映ったのは、巨大な目の模様の刺青だった。先ほどの話とあわせて、馨はすぐに理解する。それは刺青なんてものじゃない。呪印だ。しかし目の模様の呪印なんて、彼は知らなかった。
 考え込む馨を見て、サトキはくるりと向きを戻した。男性の裸に慣れていない梓は、思わず目をそらす。サトキは呪印におびえているのかと落ち込んだ。諦めた馨は素直に彼に尋ねる。
「それは・・・何の呪いなんだ?」
「不在の呪い」
 サトキは腰に下がっていた着物の袖に、手を通しなおした。聞き覚えのない呪いに馨がもう一度尋ねようと口を開くと、サトキが先に答える。
「誰にも見えず、誰にも聞こえず、死んだように生きる呪いだ」
 どんなに近くにいても見てもらえず、どんなに話しかけても聞いてもらえず、なにをしても気付いてもらえない。そんなまま何十年も生きていくなんて、気が狂ってしまう。サトキは何年も何年も、そうやって時を過ごしてきたのだと思うと、二人は気が沈んだ。
 それなのに、梓に初めて会ったとき、彼は高らかに笑っていたのだ。誰にも気付かれないという寂しさを抱えながら、それを認識するように。
 その話を聞いて、梓はふと気付いた。
『おまえ、見えるのか』
 あの時、サトキはどう思ったのだろうか?そんなもの怖くて、想像も出来なかった。
 梓の心情など知らぬ馨は、サトキがいるのだろう場所と梓を再び交互に見る。
「ん?なんで梓には見えんだ?」
 言われてやっと当人である梓は気付いた。もともと妖怪の姿がはっきりと見えない、聞こえないくらいの実力なのに、サトキのことは人間かと思うくらいはっきり見える。
 疑問に対し、サトキはふわりと笑った。とても切ない表情で。
作品名:見えない 作家名:神田 諷