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茶房 クロッカス  その1

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 そうして俺が、二人から同じ内容の相談を受けたことを順を追って説明すると、やっと二人は状況を理解したようだった。
「じゃあここ最近、あなたの態度が変だったのは、私を疑ってたからなのね。私、誰ともホテルへなんて行ってないわよ。だってあなたのこと愛してるもの」 
 そう言い終わると、礼子さんの頬がみるみるビンクに染まっていった。
「礼子、俺だっておんなじだよ。礼子を愛してるのに、他の女となんてあり得ないよ!」
 力を込めてそう言うと、淳ちゃんはいきなり礼子さんをはっしと抱きしめた。そして熱いキス。
《お、お、おォー!? ちょ、ちょっと待ってくれよー!! 独り者の俺の前でぇー!!》
 俺は目のやり場に困り、視線は店の天井をさ迷うしかなかった。

 どのくらいそうしていただろう。
 二人の興奮が醒め、ようやく俺の存在を思い出してくれた淳ちゃんが、
「あっ! 悟郎さん、いたんだったね」
 そう言うと、へへへへっと頭を掻きながら照れくさそうに笑った。
 そんな淳ちゃんを、嬉しそうに礼子さんは見つめていた。
 そして思い出したように淳ちゃんが言った。
「でも、何のためにそんな嘘ついたんだろう? あの人……」
「あっ、その人のことなんだけど――」
 俺は、先日店に来たクレイマーおばさんの風体を二人に説明して、
「――その人じゃあなかったかぃ? その嘘の話をしたのは……」と聞いた。
「そうだよ!」
「そうよそうよ!」
 また二人が声を揃えて言った。
「やっぱりなぁ……実はね…」 
 と、今度は光かさんから聞いた、デパートでの事件を話して聞かせた。
「へぇーそんな人だったんだー。そんな人には見えなかったけどなぁ」
「そうよ。時々うちの店にお花買いに来てくれるけど、いつもニコニコと、少しだけ世間話をして帰るのよ~。あの人がねぇ。人は見かけによらないって言うけど、本当なのねー」
「でもさぁ、あの人も案外可哀想な人なのかも知れないぜ。だって旦那さんが結構身勝手な人らしくって、かなりストレス溜めてるみたいだったからさー」
「そうなのか、じゃあ俺たちの仲の良いのが妬ましかったのかもなぁ……」
 と、淳ちゃんが礼子さんに相槌を求めるように見ると、礼子さんもウンウンと頷いていた。
「まぁ、何にしても二人の誤解が解けて良かったよ。これで今日からは変な夢見ないでぐっすり眠れるわ」
「悟郎さん、本当にありがとう」
 二人は口々にそう言うと、仲良く寄り添いながら帰って行った。
 俺もほっとして家路についた。