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茶房 クロッカス  その1

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 思いを振り切るように、今来た客へ目を向けた。
 男性の一人は、見たところ四十歳過ぎか? で、もう一人はそれより少し上で五十歳前後か?
 俺は、お冷のグラスを盆に載せて席まで行き、
「ご注文は?」と聞いた。
 すると若い方の男性が、
「みのさん、何にする?」と聞く。
「うーん、じゃコーヒー」 
 みのさんと呼ばれた男が答え、今度はみのさんが聞く。
「なおごんは何にするの?」 
「じゃあ俺もコーヒーにするわっ」
 なおごんと呼ばれた男も同じように答えた。
「――じゃあコーヒー二つですね」 
 と言いながら、俺はお昼のワイドショーと子供の頃の怪獣映画を思い出して、ついニヤリとほくそ笑んだ。
《あれはピグモンだっけ?》
 俺は注文のコーヒーを入れてテーブルに届けると、他に特別することもないので、聞くとはなしに二人の話を聞いていた。
 どうも二人はプロではないが、何やら小説等を書いているらしい。聞いていると興味をそそられた。

 なおごんが言った。
「みのさん、ミーちゃんはこの後どういう風になるの?」
《ん? ミーちゃん? 》
「それはもちろん――業務上の秘密さ」
 にや〜っとみのさんが笑った。
《俺も気になる》
「ええー? 教えてくれたっていいじゃないっすか。俺とみのさんの仲じゃないですか」と少し拗ねたようになおごんが言う。
「うーーん、でもなぁ〜」と、みのさんが渋った。
「――それより、なおごん――これからは青春路線で行くのかぃ?」 
 と、すかさず話しを変えてみのさんが聞くと、コロっとなおごんは騙されて、
「うん。そうも思ってるんですよ――」 
 と言うと、妙にニコニコ顔で聞いた。
「――みのさん、どう思います?」 
「まぁ、俺の好みとしては……」と、ちょっと気を持たせ、
「――やっぱりいつものギャグが好きだけどなぁ。ハッハッハ」
 と大声で笑った。
「やっぱ、そっちですかぁ? ハハハハッ……」
 つられてなおごんも笑った。
 その後も二人は、何だか小説の内容について話しているようだったが、コーヒーを飲み終わると、
「じゃあぼちぼち行くかぁ」 
 と、どちらからともなく言い、なおごんが俺に声を掛けた。
「マスターお勘定」
「ありがとうございます。あのう、お二人とも小説を書いてるんですか?」
 そう俺が問いかけると、
「あれっ? なんで知ってるの?」
「――いやぁ〔頭ポリポリ〕、すみませんねぇ、何となく聞こえちゃって……」
「ま、いいんだけどね、でも、俺たちはプロじゃないんだよ」
 と、みのさんが言った。
「そうなんですか? でも何か書いてるんでしょ? 良かったら今度、俺にも読ませて下さいよ」
 そう頼んでみた。
「本当かい? 読んでくれるんなら今度来る時に持ってくるよ」
「俺も!」
 口々にそう言いながら支払いを済ますと、帰り際に、
「じゃ また来るよ」 
 と、言葉を残して二人は帰って行った。
《また本当に来てくれるといいな……》
 売り上げよりも二人に興味を持ってしまった俺は、マジでそう思った。

 二人が帰ってからは大して客もなく、夜の七時になって店を閉め、来た時と同じように自転車に乗って家に帰った。
 家に帰ったとて、どうせ独りだ。のんびりテレビを見て風呂に入って寝た。
 いつもと同じように一日が終わった。

 ところが、次の日は違った。