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表と裏の狭間には 十三話―新規参入―

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「へいへい。今行くよ。」
俺はキッチンへ向かうと、使い方を一通り説明する。
それと、どんな食材があるかも。
「ふーむ。理子、どう思うの?」
「わっちとしては、ちょっと買い足してシチューでも作りたいかな。九人分も作るわけだし。」
「同意するの。誰か、買い物に行ってきて欲しいの!」
「ああ、俺が行くよ。何買えばいいんだ?」
「そうだね。シチューを一から作ってる時間は無いから、シチューの素とか、あとは豚肉だね。ジャガイモと人参はあるものを使っていいでしょ?」
「ああ。構わないけど?」
「よし。理子は米炊いて。私は野菜を炒めるの。」
「じゃ、ちょっと行ってくるわ。」
と言って、適当に金を持って家を出た。
後ろから、『どたーん!』『ばたーん!』『わー!』『ぎゃー!』『ばしゃばしゃ!』『よくもやったわねー!』などと、様々な音と悲鳴が聞こえてきた。
…………大丈夫だよね?

豚肉を大量購入し(脂身たっぷりの上質なバラ肉だ)、シチューのルーを購入してから家に戻る。
風呂場から、『キャハハハ!』と声が聞こえる。
まだ入ってるのかよ。
まあいい。
「紫苑!割と早かったの。肉をこっちに渡すの。」
買ってきた豚肉を耀に渡す。
「じゃぁ、ちゃっちゃと完成させるの。」
そのまま豚肉を放り込み(発泡スチロールのトレイに入っているタイプだった)、音を立てて豪快に炒め始める。
「そうだ、紫苑、これ使っていい?」
と聞いて耀が取り出したのは、ワインだ。
「いいけど………。」
どぼどぼどぼ。
ワインを鍋にぶち込んだ。
耀はライターを取り出し、ジュバッ!と火を点ける。
「うおわっ!」
炎が一瞬燃え上がり、天井を焦がすかと思った。
「お前、何でそれやったの?」
「なんとなくなの。」
テヘッ、という感じで笑う耀。
いや、なんとなくで高いワインを消費した上天井を焦がしかけるな。
と言うか軽く黒ずんでるだろうが。
まぁ、いいか。

その後、肉を野菜と一緒に炒めて、脂がたっぷりと出たら、水とコンソメスープの素を入れて煮込んだ。
煮込んだ後、シチューのルーとチーズをたっぷりと入れて煮込む。
シナモンを始めとする調味料も入れた。
ここら辺、耀と理子は手馴れたものがあった。いつも料理をしているのだろうか。
さて。
雫と蓮華が風呂から出て、二人がごちゃごちゃと言い合いながらも場を和ませ、そして落ち着いた辺りで、シチューが完成した。
炊けていた米とシチューを盛って全員に出す。
小さなテーブルをソファの前に出したりして、人数分の座る場所を確保する。
「言ってくれれば私も手伝ったのに………。」
なんて雫は言っていたが、強がりだろう。
多分、今日の疲れで料理なんか出来ないだろうから。
「チッ、もう二時だぜ。」
「これは徹夜コース確定ね。」
「ああ、ゆり。おつかい悪かったな。」
「いいわよ別に。はいこれ、おつり。」
「ああ。」
そんな事後処理をこなしながら、全員でシチューをつつく。
「あ、そうだ。忘れるところだった。」
そう言ったゆりは、スーパーの袋から紙コップとジュースを出す。
「…………?」
ジュースをコップに注いで、全員に回す。
「何だ?これ。」
「はい皆、コップもって。持ったわね?それじゃ、雫ちゃんの入学を祝って、かんぱーい!」
『かんぱーい!』
俺と雫以外の全員が、声を揃えてコップを突き出す。
「ああ、そうか。」
誘拐事件とかがあって忘れていたが、今日はそもそも雫が入学する日だった。
「あ、ありがとう。」
「明日から、よろしくね!」
「そうだな。」
「どうせ我が部に来るんすよね?」
「むしろ入って欲しいの。」
「……歓迎します。」
「わっちもね。」
こいつらは………。
「お兄ちゃん………?」
「俺も大歓迎だ。ま、楽しくやろうじゃねぇか。」
ま、多少ケチはついたが。
これから楽しくなりそうだな。
………まぁ、色々思うところはあるが。
…………それよりも。
えらく簡単に終わったな、誘拐事件。
こんなに平和でいいのだろうか?
と言うか平和すぎる……。
今も、『このシチュー、即席で作ったにしては美味しいね。料理得意なの?』『まあまあなの。雫ちゃんには及ばないの。』とか、『誘拐された紫苑の友達ってあなただったのね。びっくりしたわ。』『申し訳ありません。心配をおかけしました。』などと会話をして………。
…………はぁ!?
「蓮華とゆりって、知り合いだったのか!?」
「ええ。ゆりとは中学三年生の時からの付き合いですよ。」
「まあね。ちょっとした縁があってね。」
「へぇー。」
ちょっとした驚きだ。
「ちょっと、蓮華さんの髪が…………。これ、どうすればいいのかな?」
「うわー。こりゃ酷いわねー……。」
「あー………。」
雫の言うとおり、蓮華の長い黒髪は、先端に近くなるにつれ傷んでいた。
「気にしないで下さい。明日、美容院へ行って切ってきますので。」
まぁ、蓮華がそれでいいなら、別にいいけど。
「……そう言えば、紫苑と雫ちゃんは、この広い部屋に二人で住んでいるのでしたっけ?」
「うん、まあ。」
シチューを食べながら会話を続ける。
「結構いいシチュエーションじゃないっすか!これで義理属性入っていたら最高っすよ!で?で?いつなんすか?イベントシーンはいつ発生するんすか!?」
「お前さー。本気でリアルとゲームを混同してない?」
「してないっすよ!ただゲーム的要素がリアルで味わえればいいと思ってるだけっすよ。」
「………………。」
開き直り?
「ふぇ?イベントシーン?何の話?」
「お前は知らんでいい!」
「皆、ちょっと聞いて。」
唐突にゆりが立ち上がって、俺たちに………というより、俺と雫以外か?とにかく、全員に問いかける。
「皆さえよければ、紫苑と雫ちゃんも誘おうと思うんだけど、どうかな?」
「誘うって………お前!あれか!?」
「あれよ。」
あれ?
あれって、何だ?
「私は大歓迎なの。」
「僕も異存なしっす。」
「……当然歓迎する。」
「わっちも文句なし。」
「まぁ、オレも構わんぞ。」
「私も大歓迎ですよ。」
「よし、全員一致ね。」
「な、何の話ですか?」
「雫の言うとおりだ。一体何の話をしているんだ?」
全く話が見えないんだが。
「紫苑。雫ちゃん。もしもあんたたちが良かったら、家に来ない?」
「は?」
ゆりの、家?
「そう、あたしの家よ。」
「それって、どういうことだ?」
「あたしの家は、自分で言うのもなんだけどかなり大きくてね。だから、部屋が余ってて、部屋貸しをしているのよ。」
「ほー。」
「ぶっちゃけ、あんたたち以外の全員は家に住んでるわよ。」
「えぇ!?」
「ああ、まあ、その………な。」
驚愕の事実。
「まぁ、今回の件で痛感したんだけど、紫苑もそうなんだけどさ。」
「ん?」
「あたしたちも、かなりのお金持ちなワケよ。」
「ああ。そうなのか………。」
「で、紫苑も結構お金持ってるわけでしょ?」
「うん、まぁ、そうだな。」
「だから、あたしたちも狙われかねないわけよ。ほら、金持ちで、親がいない。思いっきり狙われやすいでしょ?」
「確かに。」