ザ・ファイナリスト
そして何を出すか迷いに迷いながら、私は人類の運命を掛けたじゃんけんをした――。
あれから一ヶ月が過ぎた。
エイリアン達は律儀にも約束は守っていった。
食料云々と言っていたのも単なるジョークか、或いは嗜好品の一種程度の事だったのかもしれない。
捕獲された後、仮死状態にでもされていたのか、あの事は誰一人として覚えていない様であった。
恐らく高度な技術で記憶の一部を取り除いたのだろう。
一部の人間はじゃんけんのことをかすかに思い出し騒ぎ立てていたが、忘れた人間はそんな出来の悪い空想話などには鼻も掛けなかったのである。
私は全てを覚えているが、誰にも話しはしなかった。
結局一番多くのヒトを消した人でなしは私だったのだから……。
エイリアンは時間までも戻していった。
というより、あの日の朝に私達を戻してくれたのだ。
人によっては髪やヒゲが多少伸びていた事に違和感を覚える者もいたが、直ぐに忘れてしまった様だ。
ただ一つ変わった事がある。
ヨーコはあの時のままの美しさを保っており、私への愛も一層深くなった気がする。
まるで一瞬先には二度と逢えなくなるような緊迫感を持っているような。
私も勿論そんなヨーコを二度と離しはしないと……。
おわり
02.11.11
№009