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てっしゅう
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「愛されたい」 第五章 事件と転機

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「淑子さんが調理を間違ってしまったと言うことになるのか・・・それなら、間違えましたと言って作り直すよね。だとしたら、何か意図的にそうしたって言うことなのか?」
「課長、こうなったから言いますが、淑子さんは、私と課長がいい仲になっていると勘違いして恨んでいたようなんです。このところ挨拶もして頂けないし、話しかけても無視されるし。文子さんに相談したら、係わらないで、としか言ってくれなかったので、そうしていたのですが、こんなことになるなんて」
「まだ、はっきりとした訳ではないから、滅多なことを言ってはいけないよ。おれが調べてはっきりさせるから。それがあなたへのせめてもの謝罪になると思うからね」
「はい、そうして下さい。お任せします」

横井はそれなら考えられることだと思っていた。

会社に戻って横井は淑子を誘い出した。何かいい話が出来ると喜んで着いて来た。
「課長が誘ってくれるなんて、夢のようですわ」
「なにも誘惑しようって言う気で誘ったんじゃないよ」
「そうなの?つまらないこと。じゃあ何のお話がしたかったんですか?」
「楠本さん、昨日の夜救急車で運ばれたんだよ。食中毒に罹って大変な思いをされたんだ」
「そうなんですか?知りませんでした」
「知りませんでした?そうなるって予想出来たんじゃないのか?」
「何を仰るんですか!何かしたって言うのですか?」
「はっきりと言ってくれよ。原因は今調べているからそのうち解るよ。詳しく調べられたら困るんじゃないのか?」
横井はウソを言って様子を覗った。

「何を調べると言うのですか?」
「あの時食べたものの中にあなたの作った春巻きもあるんだよ。それに原因があると解ったら、あなたが調べられるよ」
「そんな、証拠も無いようなことを言って。ひょっとして智子さんが私に言いがかりをつけたって言うことなの?」
「失礼なことを言うな!あなたが知らないって言うならそれでいい。私は今回のことで、チームに係わったあなたと文子さんと私の3人を、解雇するように社長にお願いした。そうすることで、智子さんと会社への謝罪にしたいと思ったんだ」
「文子さんは関係ないじゃないの!何言ってらっしゃるの」
「何故関係ないっていえるんだよ。あの場にいて料理を作ったのは、あなたと文子さんだけだよ」
「文子さんは・・・関係ないの。関係ないの」
「どういうことなんだ。はっきりと言ってくれないか?」

横井の強い口調に淑子はもうダメだと気付いたのであろうか、少しずつ話し始めた。

「課長が、悪いのよ」
「おれが?何故だ」
「私がこんなに思っているのに、振り向いてくれなかったから」
「それと今回の事が関係あるのか?」

真相を聞いて横井は原因の半分が自分にあるんだと強く感じた。同時に智子に対して申し訳ない気持ちともう自分が思ってはいけない人なんだと哀しく感じた。

「あんな小娘に課長を盗られるなんて許せなかった・・・ちょっとしたいたずらのつもりだったのよ。春巻きの最初は生の肉を使った。後のはあぶって火を通したけど。まさか生肉が感染していただなんて思っても見なかった」
「やっぱりそうだったのか。同じ肉だったのか?」
「・・・ゴメンなさい。智子さんに使ったのは賞味期限が切れていた」
「なるべくしてなったって訳だな。犯罪だぞ。どうする?」
「どうするって・・・皆クビになるんでしょ?十分償っているんじゃないの」
「どこまで冷たい人なんだ、あなたは。病院へ行って智子さんに謝罪しろ。土下座して許してもらいなさい」
「そんな事出来ないわよ。訴えるならそうしなさいよ。どんな証拠で裁判するのか見ものだわ」
「あなただけに辞めてもらう。今日付けでだ。明日から出社には及ばない。自分の置いてあるものだけは取りに来なさい」
「3人じゃないの?ウソ付いたの?」
「あなただってウソ付いたじゃない。同じことだよ。自己都合の退職にするからそのつもりで。解雇じゃないだけありがたく思えよ」
「課長は、私のこと嫌いだったのね。こんな年上だから?綺麗じゃないから?最後に聞かせて」
「おれは求めてくる女は嫌いなんだよ。控えめで優しい女性が好きなんだ。世の中の男性は殆どがそうだよ。覚えておきなさい。これから出会うだろう男性の気を引きたかったら、そうしなさい」
「気長に待っていたら直ぐに老けちゃうのよ。課長のような歳の人にはわからない悩みなの。智子さんだってすぐにそう感じる年になるから」
「彼女はあなたのように男を求めたりするような人じゃないよ。一緒にしないことだね」
「よく言ったわね!今の言葉覚えておくから・・・」

淑子は職場を去った。食中毒の原因は不明のまま名古屋フーズは3日間の営業停止を言い渡された。横井は責任を取って本社から美浜(みはま)営業所に転勤となった。文子は夫の遺族年金を貰えるようになるからとこれを機会に長年勤めた会社を退職した。

智子は毎日のように見舞いに来てくれる横井に感謝をしていた。そして、あることをきっかけに自分の携帯の番号とアドレスを教えた。

「お母さん、横井さんって言う人毎日お見舞いに来るね。感心だわ」
「うん、申し訳ないって思っているのかしら」
「それだけなのかしらね」
「意味ありそうなことをいうのね。どういうこと?」
「ううん、そう感じただけ。気にしないで。それにしてもお父さん見舞いに来ないね、何してるんだろう。最初の日に来ただけよね?」
「大丈夫って解ったから来なくなったのよ。別にいいじゃないの」
「お母さんがそういうふうだから、お父さんは甘えてるのよ」
「甘えてるのかしら?無関心なんじゃないの」
「自分では仕事以外に何も出来ないくせに、偉そうな顔をしてる。それが甘えているって言うことなんだから」
「あら、有里も大人のことが判るようになったのね。結婚したら旦那さん大変ね、ハハハ」
「なに笑っているのよ。そんな妻にならないわよ」

智子には有里がいろんな事で成長したと感じられた。明日退院するとなった前日珍しく横井は夜になってから見舞いに来た。

「遅くなってゴメン。今日は荷物を整理していて遅くなってしまったんだよ」
「どこかに行かれるの?」
「言ってなかったね。転勤するんだよ、明日から」
「知らなかった・・・責任とって、っていうこと?」
「まあね、美浜営業所だよ。実家の半田から通うよ」
「私も明日退院なの。もう逢えないわね・・・色々とお世話になりました。ありがとうございました」
「智子さん、ここで言うことじゃないけど・・・あなたのこと、好きです。解っています、ご主人が居られることも。メールだけでいいからさせて下さい。お願いします」
「横井さん・・・私46歳になるんですよ今年。もう若くないから惑わせるようなことは仰らないで下さい」
「こんな気持ち初めてなんだ。遊んできたけど、智子さんへの想いは本当なんだ。メールだけ・・・頼むよ」
「初めてお会いした時から素敵な方だと思っていました。許されない想いだとずっと封印してきました。メールだけですね?じゃあ、ここにお願いします」

智子はアドレスを開いて見せた。