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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「愛されたい」 第五章 事件と転機

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「ありがとう。これで心置きなく美浜で仕事が出来る。早く元気になって下さい。仕事は後任のものに伝えてありますから、今までどおりになさって下さい」
「その事ですが、仕事は辞めます」

智子は夫や両親からも今の仕事は辞めるように言われていた。

10日ほどの入院生活を終えて智子は自宅に帰ってきた。有里と高志はこの日のためにケーキを作って待っていてくれた。

「お母さん、退院おめでとう!」有里と高志にそう言われて本当に嬉しかった。
「高志、お父さん呼んでおいでよ」
「うん」

二階から降りてきた伸一は智子の顔を見て、
「良かったな。退院できて」とだけ言った。
「はい、ありがとうございました」
「おれは何もしていないよ。有里に礼は言ってくれ」
「あなたが救急車呼んでくださったんでしょ。感謝しているわ」
「当たり前の事しただけだよ。誰だってあんな姿見たら呼ぶよ」

「お父さん、冷たい言い方ね。もっと喜んだらどうなの?」有里はちょっと怒ったようにそう言った。
「喜んでいるよ」
「有里、もういいの。まだ今までの通りには動けないけど、仕事辞めたから落ち着いたらまた探さなきゃ」
「お母さん、もう働くのは辞めたら?お父さんだって別に構わないって言ってるんだから」
「ううん、前にも言ったけど、仕事をするっていろんな勉強も出来るし、お金はあったほうがいいの。心配しないで」

「ねえねえ、早くケーキ食べようよ!」高志が催促した。
「そうね、そうしましょう」
「お母さんは紅茶よね?お父さんはコーヒーでいいの?」
有里が忙しく世話をする。向かい合って伸一と智子はテーブルに座っていた。目の前に飲み物が出されるまでお互いに目を合わす事はなかった。

頭の中でふと昨夜の横井の姿が浮かんできた。
「あなたのこと、好きです」何と久しぶりに言われた言葉なんだろう。ケーキを少しだけ食べ終えて、自分の部屋からメールを送った。
「ご心配かけました。今、自宅に帰ってきました。今日からお仕事でしたね。頑張って下さい」

送信してから、何かが始まった・・・とそう感じた。