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キジン×ヘンジン×サツジン

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 大きな旅行かばんがひとつおいてあり、それ以外に目立ったものは特にない。
 ただし、かばんの中身は、よくわからない物でごった返していた。
 妖しげな、とまではいかないが、謎の文字で書かれた本や、不思議な意匠のペンなどが出てきた。
 曰く、すべて魔法に関するものなんだとか。
 僕はもっとおどろおどろしいイメージを持っていたため、裏切られたというか、肩透かしをくらったというか、なにか残念な感じであった。
 旅行かばんとはいえ、所詮はかばんひとつだ。
 あっという間に、珍しく、めぼしい物の物色が終わってしまう。
「もうこれと言って面白い物はありませんですよ」
「そうですね。夕飯の時間までそう長くもありませんし、次の部屋に行くとします。では」
 そういい、次は優希さんの部屋へと移動した。
 しかし、
「ここも留守ですか。仕方ありませんね、優里さんの部屋に向かいましょう」
 隣の部屋に行く。
 ノックをすると、優里さんが、どうぞ、といったため、ドアを開ける。
 部屋の中には、美術室のような匂いが漂っていた。
「あら、十一月二十九日くんじゃない。どうかしたの?」
 優希さんもこの部屋にいたらしい。
「ど、どうしたんです?」
 優里さんにそう尋ねられる。
 今日、何度目になるかわからない説明をすると、部屋に上がらせてもらえることになった。
 部屋には持ち込まれた画材道具が置かれており、かばんなどはそれほど目を引かない。
 窓の近くには、描いている途中と思わしき絵があった。
「へえ、こんな風なんだ」
 そう言いながら僕が絵に触れようとすると、
「触らないでッ!!」
 優里さんの大声が響いた。
 振り向くと、みな、驚愕をあらわにしている。
「――あ、そ、その、ごめんなさい。そ、そのう、それ、まだ途中だから、さ、触らないで。お、お願い」
「僕の方こそごめんなさい。勝手に触っていいものじゃないですよね」
 お互いに謝りあい、どこかぎこちない空気が漂うが、遊び始めるとそんな空気は霧散していった。
 かばんの中の物を物色し始めると、沙織ちゃんが、
「あれ? この少し古い服はなんですか? 他のはみんな新しいのに、この二着だけ着古してる感じがします」
 確かに、他のものに比べて色が落ちている。
「そ、それは、絵の具を使うとき、汚れてもいいように着る服なの」
「なるほど、ではこれは?」
 と、今度は僕がパンを指して言う。
「それは、デッサンのときに、消しゴムみたいに使うの」
「じゃあじゃあ、このハンマーは?」
 ネネちゃんに順番が行き、問う。
「わ、私、彫刻も、少しやっているから、それで……」
 なかなかに変わった物が多い。
 あらかた物色したが、夕飯の時間までは少し時間があった。
 だからと言って薬師さんの部屋を物色するほどの時間はない。
 なにか案はないかと考えていると、
「眉間にしわをよせてどうしましたか?」
 尋ねてきたのは優希さんだ。
 少しだけあいてしまった時間をどうしようか考えていることを伝えると、
「トランプかなにかありませんか? これくらいの時間でしたら、そのあたりが手ごろかと思います」
「おお、そうですね! そういえば持ってきているのを忘れていました。ちょっと取ってくるので、ロビーに行っていてください」
 そういって一度別れることにした。