キジン×ヘンジン×サツジン
四方八さんが言うには、何時間か前から、少しづつ人が集まり始めたらしい。
そして予定どうりであれば、僕が一番最後だそうだ。
今いる全員は、やはり手紙を持っている。
もちろん、かくいう僕のところにもそれは送られてきていた。
内容を簡潔にまとめるとこうだ。
――八月三日。
あなたをパーティーにご招待します。
パーティーの期間は三日間。
他にも何人か方を招待していますが、私は誰一人の顔もわかりません。
ですがそれは、知らない方を招待したい、というものなのです。
急で不躾な願いですが、切に、お願いいたします。
もちろん、旅費などはすべてこちらで払います。
金持ちの道楽と思い、付き合っていただければ幸いです。
参加できる方は、お手数ですが同封された手紙を送ってください――。
怪しさ満点だが、夏休みを持て余すだろうと思った僕は、これが暇つぶしになればいいと思い、手紙を出し、今ここにいると言うわけだ。
そんなことを考えているうちに、ロビーについた。
扉を開けると中には、
よく似た背格好をした二人の少女。
どこかで見た気のする女の子。
初老の紳士。
三十路前と見られる特徴のない男。
なぜか黒の三角帽子をかぶっている女子高生。
薄汚い姿のおじさん。
どこか冷たさを感じる痩躯の男。
喪服のような黒スーツの男性がいた。
初老の紳士が立ち上がり、
「おや、新しい方ですか。ようこそいらっしゃいました。私、この三日間の雑務を任されました、仕使 十六助(しし じゅうろくすけ)と申します。短い間ですが、よろしくお願いいたします」
深く、お辞儀をされる。
「いえ、こちらこそお願いします」
あわててそう返す。
「はい。お任せください。……では、ここにいる皆様の紹介をさせていただきます。あちらのよく似たお二方。友紙 優希(ともがみ ゆき)様と友紙 優里(ともがみ ゆうり)様でございます。一卵性の双子だそうで」
少し気の強そうな、キャミソールの娘がこちらを向き、
「私が優希。大学で学生をやりつつ、助教授の職につかせてもらっているわ。この子が妹の優里」
気の弱そうな七部袖のTシャツを着た娘が、
「ゆ、優里です。芸術大学に通っています」
「優里はこの歳ですでに絵の才能が評価され始めているのよ。すごいでしょう?」
姉の優希さんが自慢げにそう言い、妹の優里さんが恥ずかしそうに顔を赤らめて萎縮してしまう。
「優希さん、でいいですよね。優里さんが恥ずかしがってますよ」
僕がそういうと、
「あら、ごめんなさいね、優里」
その言葉に対し、大丈夫、と優里は答えていた。
「さて、では次の方に参りましょうか。こちらにいらっしゃるのが、夢野 愛(ゆめの あい)様です。なんでも、テレビにもよくご出演されてるとか」
活発そうなショートカット、釣り目の女の子。
見覚えがあったのはテレビに出ていたためだったようだ。
「夢埜 愛(ゆめの あい)よ。よろしく」
なげやりに言われる。容姿が整っているせいか、冷たい印象を受ける。
すると、仕使さんが小声で、
「その……この山荘が少々お気に召しませんようで、不機嫌なのでございます」
そう教えてくれた。
「――では、そこで携帯をいじられていますのが、大真賀 ネネ(おおまが ――)様でございます」
夏物のセーラー服の上に黒いマントのような、ローブのようなものをはおり、頭には黒の三角帽子が乗っかっている。
正直なところ、暑くないのかと思うし、逆に暑すぎるから頭が壊れてしまったのではないかと思う。
……だって、セーラー服ですよ?
普通、旅行にセーラー服で来る奴はいない。
では、なぜこの娘は着て来ているのだろうか?
そんなことを考えていると、ネネちゃんは携帯から顔を上げ、
「あ、どうも、現役女子高生兼魔女見習いの大真賀 ネネです。よろしくです」
………………は? 魔女?
「あの、ネネちゃん? ひとつ聞きたいことができたんだけどいいかな?」
ネネちゃんはキョトンとした表情で、
「いいですよ、お兄さん。なんですか?」
「その、……魔女見習いってのは、なに?」
ますますキョトンとした表情になって、
「え、魔女見習いについて、ですか? 魔女見習いは、魔女見習いですよ……?」
そんなことをいう。
「魔女って、魔法を使うあれだよね?」
「はい、何か使って見せますか?」
そう言って彼女は、ペーパーナイフとメモ帳を取り出した。
「――あんまし回数できませんので、よく見てくださいです」
彼女はペーパーナイフでメモ帳からちぎった一枚を半分に切り、今度はそれをペーパーナイフで突き刺した。
すると、半分になったはずのメモが、元の通り、一枚に戻っていた。
「……は、い?」
僕は驚きで声が出なくなる。
仕使さんが後ろから、
「最初は私どももマジックかと思ったのですが、どうやら本当に魔法のようでございます。タネも仕掛けもございませんでした」
「だから、ネネは最初から魔女見習いだって言ってるです。まぁ信用できないのもわかりますけど」
少し頬を膨らませ、抗議する。
「世の中には変わった人がいるものですね〜」
ジュラルミンケースを愛用するような変な人もいることだ。
魔女くらいいてもおかしくないだろう。
「お次はそこの男性。空岸 志人(からぎし しと)様でございます」
おそらく三十路前だろう男が、こちらに向き直る。
極端に特徴のない男だ。
着ている服も、雰囲気も非常に印象が希薄。
そこにいるのにもかかわらず、いないかのような錯覚を覚える。
「空岸 志人だ。つい最近まで殺人鬼として指名手配されていた。殺人はもう飽きたし、逃亡生活もこれ以上は御免だ。そういうわけだから安心してくれ。今のところ誰かを殺すような予定はない」
「さ、殺人鬼ですか。それはまた濃いですね。もしかして特徴がないのも……」
「いや、これは素だ」
余計に濃くなった。
「今度はそちらの方。通間 道征(とおりま みちゆき)様でございます」
小汚い格好のおっさんだ。
頭をボリボリとかきながら、
「オレァ通間 道征ってもんだ。住所不定無職。いわゆるホームレスってやつだな。まぁ、仲良くしよーや」
「はい。短い間かも知れませんが、よろしくお願いしますね」
ホームレス。
ここまでで出てきた他の人に比べればかわいい物だ。
……それでも充分に変人だが。
「さて、残りはお二方になりました。あちらの若干痩躯な方が薬師 医病(やくし いやみ)様、向こうの黒いスーツを着た方が、疑衣 凶(うたがい きょう)様でございます」
「薬師 医病。医者だ。怪我や病気になったらすぐに私のところに来い。有料で手当てをしてやろう」
メガネをくい、とあげる。
知的だが、人間味が薄い。
冷たさすら感じる男だ。
細いメガネと、体。
切れ長の瞳。
どれもこれも嫌味のようだ。
「紹介されたとおり、疑衣 凶だ。詐欺師をやっている。もちろん名前は偽名だ」
偽名。
詐欺師。
嘘を吐く職業か。
「薬師さんに、疑衣さんですね。よろしくお願いします」
そういった。
作品名:キジン×ヘンジン×サツジン 作家名:空言縁