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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第八回・参】試して合点

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灰皿の上で渦を巻いている蚊取線香から細く上がった煙の匂いが縁側付近に広がる
「ヒマ子さんに水の時間だっちゃね」
縁側下においてあったサンダルを履いて緊那羅が庭に下りた
「あら…もうそんな時間ですの?」
ゴトゴト鉢を引きずってヒマ子がやってきた
「もう7時だっちゃ」
緊那羅が庭先の蛇口をひねると緑色のホースから水が出る
「まだ明るいですわね…まだ日光浴できそうですわ」
鉢の中に注がれる水を見ながらヒマ子が言った
「そうだっちゃね」
緊那羅が笑いながら答えた
「京助〜!! 京助って」
母ハルミの声が聞こえた
「京様お呼ばれになっておりますわね」
ヒマ子が体をひねって家の中を見る
「京助は確か…さっき風呂に行くとか言ってたっちゃ」
ヒマ子と同じように家の中を見た緊那羅が言った
「まぁ…お背中など流して差し上げたいですわ」
ヒマ子が身をよじって頬を赤らめる

「ったく…風呂くらいはいらせろや;」
微かにぬれた足音とぼやきが聞こえた
「…京助…;」
「キャ------!!!!!!!!」
ほんの少し見えた京助の姿を見て緊那羅が呆れた顔をしヒマ子が悲鳴を上げた
「何て格好してきてんのアンタはッ!!」
そして聞こえた母ハルミの声
「隠すトコ隠してるからいいじゃんかッ; ってか持ってきてくれてもいいじゃんかッ!!!」
それに返す京助の声も聞こえた
「巻いてくるならバスタオルにしなさいッ!!」
更に母ハルミの声がした
「わーったよッ; …はいよ」
やっと電話に応答したらしい京助の声がすると静かになった

「…またアノ格好で戻るんだっちゃ…?;」
水が出っ放しのホースを手に緊那羅が呟く
「何度でも私は歓迎いたしますわ」
身をくねらせてヒマ子が言った
「母さん俺ちょい行ってくる」
京助の声と足音が聞こえた
「どこに?」
母ハルミが聞き返している
「学校〜あ、風呂のふた閉めてねぇから閉めといて」
遠ざかる京助の声と足音
「…お出かけになられるようですわね」
ヒマ子が家の中を見て言う
「学校行くみたいだっちゃ」
緊那羅が水を止めに蛇口の方に歩き出すとガラガラと玄関の引き戸が開く音がした
「お、緊那羅」
蛇口をひねっていた緊那羅に京助が声をかけた
「京様お出かけですの?」
ヒマ子が鉢を引きずって緊那羅の隣から聞いた
「ああ…学校行ってくる…来るか?」
ズボンのベルトを締めながら京助が緊那羅に聞いた
「行きたいのは山々なのですが…夫のいない間に家を守るのが妻の務め…」
ヒマ子が言う
「…あのな;」
京助が肩を落とした
「何しにいくんだっちゃ? 夏休み…というかもう暗くなるのに…」
緊那羅がホースを置いて顔を上げて聞いた

夕焼けがようやく夕焼けになってきた空の下
「…そういえば京助って朝に学校行く時コレに乗らないっちゃね」
京助が漕ぐ自転車に立ってフタケツしている緊那羅が京助に言う

【解説しよう。フタケツとはいわゆる二人乗りのことである】

「あ〜…んなチャリ引っ張り出してる時間ねぇし…走った方裏道やら使えるしな」
京助が答える
「…早く起きればいいことだと思うんだっちゃけど」
緊那羅がボソッと呟いた
「うるへい; 朝は眠みぃんだよ; 弱いんだよ俺はッ;」
聞こえたのか京助が言う
「でもラジオ体操って朝早いって…」
京助を見下ろして緊那羅が言った
「…いかねぇとまた母さん怒んだろうなぁ…;」
溜息混じりに呟くと京助は漕ぐ速度を上げた