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Stern

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 お外はもうまっくらやみにのみこまれていて、まどから見えるのはまちのあかりだけになっている。 
 そのあかりをよく見ればいくつものすじがながれていくのが分かる。
 水のにおいがする。
 ときどきどこかのお空がぴかっとひかる。でもわたしはぜんぜんこわくなかった。
 もっとこわい思いがわたしのこころにあったから。
 あのとき、かれからのでんわを切ってからずっと、ずーっとふあんな気持ちがこころの中でうずまいている。そして、それはどんどんと大きくなっていて、もうたえられないくらいになっていた。
 ざあざあざあざあ。
 雨の音がうるさい。
 ざあざあざあざあざあざあざあざあ。
 頭の中にまでひびいてくる。
 ざあざあざあざあざあざあざあざあ。
 ざあざあざあざあざあざあざあざあ。
 つらいよ、くるしいよ。
 るるるるるるるるるる。
 と、とつぜんわたしのけいたいでんわが鳴った。かれからじゃないことだけは分かった。もしかれからだったら、わたしのこころはしあわせを感じるから。
 ざあざあざあざあざあざあざあざあ。
 るるるるるるるるるるるるるるるる。 
 うるさい、うるさい、うるさい。
 ほんとうはいやだったけれど、わたしはたえられなくなってけいたいを手にとって、おそるおそる耳にはこんだ。
 こわい。
「・・・・・・・・・美柴・・・・・・・・・さん」
『・・・・・・・・・華月ちゃん・・・・・・・・』
 今まで聞いたことのないような美柴さんのきんぱくした声。それだけでもうわたしにはつらいものだった。
 電話を切ろうとしたけれどできなかった。指が、体が、こおりついたようにうごかなかったから。
『華月ちゃん、落ち着いて聞いて・・・・・・・・・。』
 わたしはそれからのことをよくおぼえていない。







作品名:Stern 作家名:砌 朱依