Stern
もし、神様が私達の運命を握っているのならば、私はその神様を恨みたい。
こんなことを起こしたことに。
そして、それと同時に私はただひたすら祈る。神様に救いを求める。
午後八時五十分。
降り続く雨の音が鼓膜を震わせる。
長い廊下。独特の匂い、消毒の。
友人たちは視界の先に光る赤いランプをずっと見続けていた。
手術中。
どうしてこんなことになったのか誰もが思っているに違いない。
私は携帯電話をしまいながら、彼らのいるところに戻った。
「ごめん、いやなことやらせちゃって」
戻ってきた私を見て友人の一人が言った。
「いいよ。このまま連絡しないわけにもいかなかったし」
「・・・・・・・・・どう・・・・・・・・だった。華月ちゃん」
「あんまり思い出したくないわ。あの時の華月ちゃんの様子は」
私が今起きている事実を言った後から、まるで華月ちゃんから感情が欠落したような感じだった。ただ、私の言ったことを聞いて、返事をしただけ。それは、本当に話の内容を理解していたのかも分からなかった。
「洸は生きるよね。あんな可愛い彼女を残して死んだりしないよね」
友人は言った。その言葉を自分に言い聞かせるように。
「うん」
私はその言葉に頷いた。そうなるようにと願いながら。
午後十時五十分。
私が華月ちゃんのところに電話をしてからもう二時間が経った。だけど華月ちゃんはまだ姿を見せていなかった。
華月ちゃんの家からここまではそんなに遠くない。歩いて三十分もすれば着くはず。
私は不安になって携帯電話を取り出して、外へ向かおうとした。
その時だった。
コツ・・・・・・コツ・・・・コツ・・・・・・・・・コツ。
リノリウムの床が響く音がした。廊下の向こう側から聞こえる音。
その足音はゆっくりで不規則だった。
だんだんと姿が近づいてくる。
「・・・・・・・・華月・・・・・・・ちゃん」
その姿を見て、そこにいた誰もが息を呑んだ。
現れたのは、全身ズブ濡れで、おぼろげな目をした華月ちゃんの姿だった。
いつも、可愛らしく幸せそうにしている彼女とはまるで別人のようだった。
足元もふらついていて、ここに来れた事自体が奇蹟かもしれなかった。
皆、顔を背けていた。
あまりにも辛い姿で。
幸せが消えていきそうな姿を見るのが耐えられなかったから。
「・・・・・・・・・洸・・・・・・・・ちゃん」
かすれるような声で華月ちゃんは愛する人の名を呼び続けていた。
その姿は壊れてしまったおもちゃのようで、残酷だった。