Stern
かれの顔が近づく。かれの瞳が私の眼にうつる。すいこまれそうになる。わたしのすべて、たましいまですべて。
くちびるに温かいかんしょく。わたしをしあわせにしてくれる温もり。
そして、さみしくなる合図。
「それじゃ」
かれの顔がはなれ、そのまま後ろを向いた。わたしの住んでいるマンションの前。いつもの別れ場所。
どんなにしあわせでいてもこの時だけはきてほしくない。あまりにもつらいから。
だからわたしは目の前からはなれていこうとするかれの服のそでをつかんだ。ほんの少しのわたしのていこう。
するとかれはもう一度わたしのほうをふりむいて、やさしくわたしのおでこにくちづけをした。それはよけいにわたしをさみしくさせた。
「また明日」
かれはわたしの頭をなでてからわたしからはなれ、くらいくらいやみの中に入っていった。
かれはこの時どれくらいわたしがさみしいか知っているのかな。
かれはこの時わたしがどれだけがまんをしているのか知っているのかな。
わたしの心のすいそうはあふれてきてしまって、わたしは、少しだけ、泣いた。