Stern
瞳を刺す陽光。
肌を灼く熱。
まとわりつく空気。
・・・・・・・・・暑い。
午後二時。一番気温の上がる時間帯。私はそんな外の世界から急いでこの空調の効いた喫茶店に逃げ込んできた。
私は読んでいた本から顔を上げて外をふと見れば、汗だくになったサラリーマンが慌てて走っていく姿が見えた。
信じられない。こんなに暑いというのに外にいる神経が考えられない。
と、この喫茶店に入ってくる二人の姿が見えた。私のよく知る人物。
この暑いのにも拘らず、仲良く手をつないで店内に入ってきた。そして、女の子の方が私の姿に気付き手を振ってきた。
可愛い笑顔。くったくのない幸せそうな顔。
隣にいた男も私に気付き、二人一緒に私のほうに近付いてきた。
私は気温が上がるのを覚悟した。
「美柴さーん。こんにちは」
「やっほー、華月ちゃん」
浄化。
きれいな空気が私の中に入ってくる。私の心を洗い流す。
私は本に栞をはさんで鞄に入れて、その鞄を椅子の上からどかす。そして、そこに華月ちゃんが座る。
「何やってんだ、一人で」
その隣の席には洸が座る。華月ちゃんの恋人で、私の幼馴染。いわゆる腐れ縁の男。
「一人で悪かったですね。そーゆーあんた達も何やってるのよ。こんな炎天下の中で」
「お散歩してたの」
私の質問には洸ではなく華月ちゃんが答える。満面の笑み。その顔つきはとても幼く見える。言動も背丈も中学生といっても通用するくらい。
「またどっかに行ってたの。あいかわらずね華月ちゃんは」
「そういうわけで、前の講義のノートあるか」
「ほんと、夏だっていうのに熱いわね、あなたたちは。宗教学のノートでしょ。レポートの課題出てたわよ」
私は鞄から講義ノートを取り出す。
「何『身の回りにある宗教意識について』三千字か」
「どーゆーの。見せて」
二人で仲良くノートを見る姿を見ていて私は思う。
私はこの二人が幸せでいる姿を見るのが好きだ。それは華月ちゃんが可愛いからかもしれない。
それに、私はかつて洸を愛していたからかもしれない。その気持ちは今でも少し残っている。
昔、私と洸は付き合ったこともあった。だからこそあの時よりも幸せそうに笑う洸を見ると私まで幸せに思えてくる。
「いーわね。いつも幸せそうで」
その言葉を聴いて華月ちゃんが私の方に顔を向けた。洸も私も大好きな可愛らしい笑顔。
「うん。洸ちゃんがいつもいっしょにいてくれるし、美柴さんもいるから」
「ありがと」
だから私は心の奥底から願う。
二人がいつまでも幸せでいることを。